2011年05月号 (Vol.124 No.3)
植物の防御応答と過敏感細胞死における細胞骨格と液胞の動態
Higaki T, Kurusu T, Hasezawa S, Kuchitsu K (2011) Dynamic intracellular reorganization of cytoskeletons and the vacuole in defense responses and hypersensitive cell death in plants. J Plant Res 124:314-324植物は病原体の感染を認識すると、プログラム細胞死(過敏感反応)を含む一連の防御応答を誘導する。こうした過程で、細胞骨格系や液胞の再編成が誘導されることが明らかにされた。これらの動態についてまとめ、細胞死の実行過程におけるアクチン繊維と液胞の役割を議論した。(p.314-324)
ツツジ科Pyroleaeの系統:形質進化の考察
Liu Z, Wang Z, Zhou J, Peng H (2011) Phylogeny of Pyroleae (Ericaceae): implications for character evo-lution. J Plant Res 124:325-337ツツジ科Pyroleaeは北半球に4属が分布する。核DNAのITSと葉緑体DNAスペーサーの塩基配列に基づいて系統解析を行い、Pyroleaeの単系統性を確認するとともに属間の系統関係を明らかにした。さらに花形態や染色体基本数などについて考察した。(p.325-337)
核rDNAのITSと色素体DNAのtrnL-FスペーサーならびにmatKによるモクセイ科Forsythieaeの分子系統
Kim D, Kim J (2011) Molecular phylogeny of tribe Forsythieae (Oleaceae) based on nuclear ribosomal DNA internal transcribed spacers and plastid DNA trnL-F and matK gene sequences. J Plant Res 124:339-347Forsythieaeは2属14種が極東地域に分布する。核DNAのITSと葉緑体DNAスペーサーの塩基配列に基づいて系統解析を行い、Forsythieae の単系統性と種間の系統を検証した。そして果実形態の多様性が並行して進化していると考察した。(p.339-347)
チシマゼキショウ科(オモダカ目)の分子系統解析:科の範疇と属間関係
Azuma H, Tobe H (2011) Molecular phylogenetic analyses of Tofieldiaceae (Alismatales): family cir-cumscription and intergeneric relationships. J Plant Res 124: 349-357葉緑体DNAによる分子系統解析により、単子葉植物チシマゼキショウ科(オモダカ目)はHarperocallis、Isidrogalvia、Pleea、チシマゼキショウ属、イワショウブ属の5属からなる単系統群であること、科内では、Pleea科の残りと姉妹群になることなどを明らかにした。 (p.349-357)
日本の暖地に生育するススキパッチの成長による地下茎集積の変化
Kobayashi K, Yokoi Y, Masuzawa T (2011) Ontoge-netic changes in accumulation of rhizomes in monoc-lonal patch of Miscanthus sinensis Anderss. in warm temperate region of Japan. J Plant Res 124: 359-369ススキパッチのクローン拡大における主な利益について調べた結果、パッチは加齢とともに面積の上限に達するが、同時にパッチの内部には地下茎の集積が見られた。パッチのシュートあたりの地下茎重や貯蔵物質量の増加が面積拡大による採餌よりも重要であることが示唆された。(p.359-369)
生育温度と低温持続期間が高山雪田地中植物のイワイチョウの葉のフェノロジーに及ぼす影響
Yoshie F (2011) Effects of growth temperature and chilling duration on leaf phenology of Fauria crista-galli subsp. japonica, an alpine snowbed geophyte. J Plant Res 124:371-377生育温度と冬の低温持続期間がイワイチョウの葉のフェノロジーに及ぼす影響を調査した。その結果、暖かい生育温度は個体としての葉の生長期間と維持期間を延ばし、長い低温処理は涼しい生育温度における個体としての、また個葉としての葉の維持期間を短くすることが明らかになった。(p.371-377)
アカマツ放射仮道管の細胞死過程における核DNA断片化
Nakaba S, Kubo T, Funada R (2011) Nuclear DNA fragmentation during cell death of short-lived ray tracheids in the conifer Pinus densiflora. J Plant Res 124:379-384アカマツ(Pinus densiflora)の短命な二次木部細胞である放射仮道管の核DNA断片化のタイミングをTUNEL法により解析した。TUNEL陽性シグナルは、核を失う直前の細胞にのみ観察されたことから、核DNA断片化は細胞死過程の最終段階に起こるといえる。(p.379-384)
シロイヌナズナの種子の発生におけるミオイノシトールモノホスファターゼファミリー遺伝子の発現と機能
Sato Y, Yazawa K, Yoshida S, Tamaoki M, Nakajima N, Iwai H, Ishii T, Satoh S (2011) Expression and functions of myo-inositol monophosphatase family genes in seed development of Arabidopsis. J Plant Res 124 (3):385-394シロイヌナズナのミオイノシトールモノホスファターゼ(IMP)はVTC4によってコードされるが、さらに2つのIMP候補遺伝子(IMPL1,IMPL2)については研究が進んでいなかった。これら3種のIMP遺伝子の遺伝学的解析の結果、IMPL2が胚発生過程でミオイノシトール合成に加えヒスチジン合成にも関わる事が示された。(p.385-394)
タバコのショ糖トランスポーター(NtSUT4)の同定・機能解析
Okubo-Kurihara E, Higaki T, Kurihara Y, Kutsuna N, Yamaguchi J and Hasezawa S (2011) Sucrose transporter NtSUT4 from tobacco BY-2 involved in plant cell shape during miniprotoplast culture. J Plant Res 124:395-403植物においてショ糖は様々な役割を果たすが、その輸送を担うトランスポーターの機能については不明な点が多い。今回、タバコにおける液胞膜局在のショ糖トランスポーター(NtSUT4)を同定し、機能解析を行った。その結果、NtSUT4がショ糖の輸送を介して細胞形態の変化に関与している可能性が示唆された。(p.395-403)
シロイヌナズナのRNaseIII様タンパク質(AtRTL2)はin vitroで2本鎖RNAを切断する
Kiyota E, Okada R, Kondo N, Hiraguri A, Moriyama H, Fukuhara T (2011) An Arabidopsis RNase III-like protein, AtRTL2, cleaves double-stranded RNA in vitro. J Plant Res 124:405-414シロイヌナズナのクラス1RNaseIII様タンパク質(AtRTL2)について酵素活性を解析した。その結果、AtRTL2はin vitroで2本鎖RNAを特異的に切断し、25塩基もしくはそれ以上の長さの低分子RNAを切断産物として生成することが判明した。(p.405-414)
タンパク質リン酸化を介した感染シグナル(MAMP)誘導性細胞質Ca2+濃度変化の負のフィードバック制御機構
Kurusu T, Hamada H, Sugiyama Y, Yagala T, Kadota Y, Furuichi T, Hayashi T, Umemura K, Komatsu S, Miyao A, Hirochika H, Kuchitsu K (2011) Negative feedback regulation of microbe-associated molecular pattern-induced cytosolic Ca2+ transients by protein phosphorylation. J Plant Res 124:415-424Ca2+感受性発光タンパク質発現イネ細胞株を確立し、感染シグナル分子(MAMP)により誘導される細胞質Ca2+濃度変化等の初期応答反応の制御機構を解析した。その結果、感染シグナルに特異的な、タンパク質リン酸化を介したCa2+動員の負のフィードバック制御機構を発見した。(p.415-424)
シロイヌナズナの硝酸センサーであるNRT1.1が硝酸非依存的な機能をもつ証拠
Hachiya T, Mizokami Y, Miyata K, Tholen D, Wata-nabe CK, Noguchi K (2011) Evidence for a ni-trate-independent function of the nitrate sensor NRT1.1 in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 124:425-430硝酸トランスポーターNRT1.1は硝酸のセンサーとして機能し、硝酸応答性の多くの現象に関与することから近年注目されている。本研究の結果はNRT1.1が硝酸非依存的に機能することを明確に示しており、今後のNRT1.1研究の新たな道標となることが期待される。(p.425-430)