JPR和文要旨バックナンバー

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2011年07月号 (Vol.124 No.4)

アブシシン酸(ABA)研究の新時代を拓く

Nambara E, Kuchitsu K (2011) Opening a new era of ABA research. J Plant Res 124:431-435

種子の休眠や成熟、ストレス応答などを司るアブシシン酸(ABA)の作用機構は、50年に及ぶ研究史の中で、この数年間にブレイクスルーが生まれた。本特集号では、系統進化、生態、新しい研究手法に目を配りつつ、植物科学全体に及びつつあるABA研究の新しい波を紹介する。(p.431-435)

コケ植物の生理学的解析から探る陸上植物共通のABA応答機構

Takezawa D, Komatsu K, Sakata Y (2011) ABA in bryophytes: how a universal growth regulator in life became a plant hormone? J Plant Res 124:437-453

本総説では、植物ホルモンとして知られるABAについて、基部陸上植物と非陸上植物における役割を概説するとともに、モデルコケ植物であるヒメツリガネゴケとゼニゴケを用いたABA研究の最前線を紹介し、植物の陸上化に果たしたABA合成系とシグナル伝達系の進化について議論する。(p.437-453)

ABAの代謝および情報伝達に関与する遺伝子群の起源と進化

Hanada K, Hase T, Toyoda T, Shinozaki K, Okamoto M (2011) Origin and evolution of genes related to ABA metabolism and its signaling pathways. J Plant Res 124:455-465

ABAの代謝および情報伝達に関与する遺伝子に着目し、分子系統解析および遺伝子発現解析を行った。その結果、植物進化の過程で、異なった組織での発現の多様化を引き起こすようにABA情報伝達に関与する遺伝子が重複しており、その遺伝子重複が高等植物のストレス耐性機構の構築に関係していることが判明した。(p.455-465)

水生植物の生存様式の陸水転換におけるアブシシン酸の役割

Wanke D (2011) The ABA-mediated switch between submersed and emersed life-styles in aquatic macro-phytes. J Plant Res 124:467-475

水生植物は生存様式を陸生から水生に転換する際、発生のリプログラミングを誘導し、乾燥耐性を持つ器官を形成する。この過程でABAが重要な役割を果たす。本総説では、環境要因に呼応した発生制御におけるABAの役割や他の植物ホルモンとの相互作用について、多角的に論じている。(p.467-475)

孔辺細胞のABAシグナリング:ツユクサとソラマメから学ぶ

Mori IC, Murata Y (2011) ABA Signaling in Stomatal Guard Cells: Lessons from Commelina and Vicia. J Plant Res 124:477-487

アブシシン酸(ABA)の信号伝達の解明が様々な植物の特性を利用して進められてきた。特にソラマメとツユクサを用いた生化学、電気生理学および細胞生理学的解析により多くの知見が得られた。本稿では様々な植物種による孔辺細胞ABAシグナルの解明における先駆的な研究を紹介する。(p.477-487)

アブシシン酸と植物病原相互作用

FY Cao, Yoshioka K, Desveaux D (2011) The roles of ABA in plant-pathogen interactions. J Plant Res 124:489-499

種子の休眠促進や気孔の開閉制御などに重要な植物ホルモンアブシシン酸は、近年その役割が病害抵抗性にまでおよぶことが知られはじめてきた。このレビューでは、病原抵抗性に重要なサリチル酸とアブシシン酸との情報伝達クロストークを紹介し、今後の研究の展望について論議する。(p.489-499)

アブシシン酸の生合成部位から作用点への輸送

Seo M, Koshiba T (2011) Transport of ABA from the site of biosynthesis to the site of action. J Plant Res 124:501-507

近年のシロイヌナズナを用いた研究により、アブシシン酸(ABA)は乾燥に応答して主に葉の維管束組織で合成され、孔辺細胞へと輸送される可能性が示された。さらにABA輸送体が同定されたことにより、植物体内におけるABA輸送の制御機構が明らかになると期待される。(p.501-507)

ABAを介した浸透圧ストレス応答における転写制御

Fujita Y, Fujita M, Shinozaki K, Yamaguchi-Shinozaki K (2011) ABA-mediated transcriptional regulation in response to osmotic stress in plants. J Plant Res 124:509-525

植物細胞の脱水にともないABA濃度が上昇し、これが引き金になって多数の浸透圧ストレス応答性遺伝子の発現が誘導される。本稿では、栄養成長期の浸透圧ストレス応答を中心に、ABAを介した遺伝子発現の転写制御機構についてこれまでの知見をまとめ、その役割を議論した。(p.509-525)

シロイヌナズナのMg-キラターゼHサブユニットは気孔孔辺細胞におけるABAシグナル伝達に関与するが、ABA受容体ではない

Tsuzuki T, Takahashi K, Inoue S, Okigaki Y, Tomiyama M, Hossain MA, Shimazaki K, Murata Y, Kinoshita T (2011) Mg-chelatase H subunit affects ABA signaling in stomatal guard cells, but is not an ABA receptor in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 124:527-538

葉の重量変動を指標にした気孔開度変異体のスクリーニングを行い、Mg-キラターゼHサブユニット(CHLH)に変異をもつABA非感受性変異体rtl1を単離した。解析の結果、CHLHは気孔のABAシグナル伝達には関与するが、ABA受容体ではないことが明らかとなった。(p.527-538)

アブシシン酸シグナル伝達系の理解に向けたシステム生物学的アプローチ

Umezawa T (2011) Systems biology approaches to abscisic acid signaling. J Plant Res 124:539-548

近年の研究によって、アブシシン酸(ABA)シグナル伝達系の主要経路が明らかとなった。今後の展開の1つとして、ABAシグナル伝達系をシステム全体として捉えることが重要である。本稿ではトランスクリプトームおよびリン酸化プロテオームの2つを取り上げて解説した。(p.539-548)

アブシシン酸のケミカルバイオロジー研究

Kitahata N, Asami T (2011) Chemical biology of ab-scisic acid. J Plant Res 124:549-557

ケミカルバイオロジー研究において、生物活性を示す化合物の発見または創製は最も重要な要素である。これまでにさまざまなアブシシン酸誘導体や分子プローブ、生合成や代謝酵素に対する阻害剤などが開発されている。本論文では、これらのアブシシン酸関連化合物の特徴を概説する。(p.549-557)

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