2011年09月号 (Vol.124 No.5)
2011年JPR論文賞の報告
Tsukaya H(Editor-in-Chief)(2011) Announcement of awards by the Journal of Plant Research. J Plant Res 124:559-560Journal of Plant Research (JPR)編集委員会は、Muraoka et al. (2010)と Tsuboi and Wada (2010)を2011年のBest Paper賞受賞論文と決定した。加えてISIのデータベースに基づき、2008年にJPR誌に掲載された論文中、最も引用回数の高かった論文として、Tokuoka (2008)をMost-Cited Paper 賞受賞論文に決定した。いずれもJPRを代表する好著として称えたい。(p.559-560)
菌あるいは植物に寄生する被子植物における核18SリボゾームDNA分子進化速度の促進
Lamaire B, Huysmans S, Smets E, Merckx V (2011) Rate accelerations in nuclear 18S rDNA of mycohete-rotrophic and parasitic angiosperms. J Plant Res 124:561-576非光合成植物では葉緑体遺伝子の分子進化速度に対する進化的制約が弱まることが知られている。しかし、核遺伝子については、よくわかっていない。本研究では、相対速度テストにより、非光合成植物では核18SリボゾームDNAでも分子進化速度の促進を明らかとした。(p.561-576)
類縁が不明のアーウィンギア科(キントラノオ目)の発生学的研究
Tobe T, Raven PH (2011) Embryology of the Irvin-giaceae, a family with uncertain relationships among the Malpighiales. J Plant Res 124:577-591アーウィンギア科の2種について葯、胚珠、種子の63形質の発生を調べ、他のキントラノオ目39科と比較した。外種皮に同心円状に並ぶ維管束群を多数もつなどの特徴をもつが、比較したどの科とも一致しなかった。まだ18科(45%)が未研究であり、今後の研究が望まれる。(p.577-591)
メキシコ・マザテック族が用いる幻覚催起植物Salvia divinorumの進化と起源:分子系統的アプローチによる解析
Jenks A. A, Walker J. B, Kim S-H (2011) Evolution and origins of the Mazatec hallucinogenic sage, Salvia divinorum (Lamiaceae): a molecular phy-logenetic approach. J Plant Res 124:593-600Salvia divinorumはメキシコのマザテック族の儀式に用いられる幻覚を引き起こす植物で、民族植物学的に重要である。この植物は、Dusenostachys節に属すとされ、交雑起源の可能性が指摘されてきたが、分子系統学的解析の結果はそれを支持しなかった。(p.593-600)
水生被子植物カワゴケソウ科カワゴケソウ亜科の表皮にみられる2形葉緑体
Fujinami R, Yoshihama I, Imaichi R(2011) Dimorphic chloroplasts in the epidermis of Podostemoideae, a subfamily of the unique aquatic angiosperm family Podostemaceae. J Plant Res 124:601-605激流中に生きるカワゴケソウ科カワゴケソウ亜科2属は、根や葉の表皮細胞に大小2形の葉緑体をもつことが示された。小型葉緑体は正常なグラナ構造をもつが、デンプン粒をほとんどもたず、表皮細胞内の上側に偏在することから、水中での光合成のCO2供給に関与すると推測される。(p.601-605)
タケ亜科における79個の完全長mariner様トランスポゾン転移酵素遺伝子の単離と解析
Zhou M-B, Zhong H, Tang D-Q (2011) Isolation and characterization of seventy-nine full-length mari-ner-like transposase genes in the Bambusoideae sub-family. J Plant Res 124:607-617mariner様因子(MLE)は様々な生物に広く見られる転移因子である。本研究では、63種のタケ亜科植物から、79個の完全長MLEトランスポゾン転移酵素遺伝子を単離して、解析を行なった。その結果に基づき、タケ亜科におけるMLEの多様性と進化を論じる。(p.607-617)
キトサンで処理したシロイヌナズナ実生の転写産物プロファイリング
Povero G, Loreti E, Pucciariello C, Santaniello A, Di Tommaso D, Di Tommaso G, Kapetis D, Zolezzi F, Piaggesi A, Perata P (2011) Transcript profiling of chitosan-treated Arabidopsis seedlings. J Plant Res 124:619-629キチンの脱アセチル化体であるキトサンも植物に感染防御応答を誘導する。キトサン処理したシロイヌナズナの葉の耐病性を評価するとともに、転写産物の変動を網羅的に解析した。野生型株、キチン非感受性cerk1変異株の双方で防御関連遺伝子の発現が誘導され、キトサンはCERK1非依存的に感知されることが判明した。(p.619-629)
ホンモンジゴケにおける環境中の銅濃度による無性芽形成の制御
Nomura T, Hasezawa S (2011) Regulation of gemma formation in the copper moss Scopelophila cataractae by environmental copper concentrations. J Plant Res 124:631-638銅濃度の高い環境に偏在するホンモンジゴケの原糸体への銅添加の影響を解析した結果、高濃度の銅添加条件で原糸体成長を促進する一方で、低濃度では無性芽形成の促進を引き起こすことが明らかになった。本結果は、このコケの特殊な偏在性を説明しうるものであると考えられる。(p.631-638)
オオシャジクモにおいて浸透圧刺激により誘導される脱分極の不応期からの回復にはタンパク質合成が関与している
Shimmen T (2011) Involvement of protein synthesis in recovery from refractory period of electrical depo-larization induced by osmotic stimulation in Chara coralline. J. Plant Res 124:639-644オオシャジクモの節間細胞に浸透圧刺激を与えると、細胞の末端で一時的な脱分極が誘導された。その不応期は非常に長く、回復には約2時間を要した。不応期からの回復にはタンパク質合成が関与している可能性が考えられたので、回復に対するタンパク質合成阻害剤の影響を調べた。シクロヘキシミドなどの80Sリボソームにおけるタンパク質合成阻害剤は不応期からの回復を完全に阻害した。一方、70Sリボソームにおけるタンパク質合成阻害剤は回復を全く阻害しなかった。さらに、浸透圧刺激をしない細胞をシクロヘキシミドで処理すると、浸透圧刺激に対する脱分極反応が阻害された。脱分極に関与しているタンパク質の動態について議論した。(p.639-644)