2011年11月号 (Vol.124 No.6)
核SSR遺伝子座を用いた東日本におけるミズナラの遺伝構造の解明
Ohsawa T, Tsuda Y, Saito Y, Ide Y(2011) The genetic structure of Quercus crispula in northeastern Japan as revealed by nuclear simple sequence repeat loci . J Plant Res 124:645-654中部日本以北のミズナラ集団の遺伝構造を核SSR遺伝子座により調べた結果、供試16集団は遺伝的背景を異にする北海道と本州の2グループに分かれた。北海道に本州と異なるグループが検出されたことおよび先行研究から、過去の氷期にミズナラが北海道に生残していた可能性を指摘した。(p.645-654)
シオガマギク属12種の花内一時的資源分配:送粉媒介者への異なる報酬の影響
Zhang L, Wang X, Du G (2011) Primary floral allocation per flower in 12 Pedicularis (Orobanchaceae) species: significant effect of two distinct rewarding types for pollinators. J Plant Res 124:655-661送粉媒介者への報酬が異なるシオガマギク属12種について、花内の資源分配について調べた。蜜を報酬としない種は、蜜も花粉も提供する種よりも雌に偏った資源分配をしていた。この現象を性分配理論の観点から考察した。生育高度が花内の性分配に影響を与えている可能性もある。(p.655-661)
大気汚染ストレスによって、アカマツ針葉の構造タンパク質への窒素分配は増加し、光合成窒素利用効率は低下する
Guan L-L, Wen D -Z (2011) More nitrogen partition in structural proteins and decreased photosynthetic nitrogen-use efficiency of Pinus massoniana under in situ polluted stress. J Plant Res 124:663-673中国の工業地帯の汚染地域で衰退しているPinus massonianaの針葉では、光合成タンパク質への窒素分配は健全個体の0.6倍程度であったが、針葉の構造タンパク質への分配は健全個体の1.8倍程度だった。窒素当たりの光合成速度(PNUE)の低下は、構造タンパク質の増加によって説明された。(p.663-673)
多年生マメ科木本植物における選択的な胚の発育不全:果実あたりの種子数減少により母性植物が有利となる場合
Arathi, H. S. (2011) Selective embryo abortion in a perennial tree-legume: a case for maternal advantage of reduced seed number per fruit. J Plant Res 124:675-681本研究はマメ科ハナズオウ属Cercis Canadensisにみられる胚の発育不全について、種子成熟における胚珠位置の影響、種子あたりの母性コストなどを調べた。その結果、胚の発育不全が発生初期に、胚珠の位置に依存して選択的に起こりやすいことを示した。(p.675-681)
オクヤマザサ小面積開花における他殖率
Kitamura K, Kawahara T (2011) Estimation of out-crossing rates at small-scale flowering sites of the dwarf bamboo species, Sasa cernua. J Plant Res 124:683-688札幌市近郊で小面積開花したオクヤマザサの他殖率を推定した結果、0.148であった。ほとんどの開花稈で完全に自殖していたが、5本については2-17%の他殖由来の種子が観察された。自殖由来の高い近交度は2年後に発芽した野外の実生では低下した。(p.683-688)
Tamarix hispida から見いだされたThZFL (zinc-finger-like)遺伝子は耐塩性や浸透圧耐性に関与している
An Y, Wang Y, Lou L, Zheng T, Qu G -Z (2011) A novel zinc-finger-like gene from Tamarix hispi-da is involved in salt and osmotic tolerance. J Plant Res 124:689-697中央アジアの砂漠地帯に適応した灌木のタマリスク類の1つTamarix hispidaは、乾燥耐性、耐塩性、高温耐性を保持している。このタマリスクから単離したThZFL (zinc-finger-like)遺伝子は塩ストレス、浸透圧ストレスおよびABAで誘導される。この遺伝子を酵母やタバコで発現されると塩ストレス、浸透圧ストレス耐性を示した。この遺伝子を導入されたタバコでは、膜の脂質過酸化反応を低下させることによって種々の耐性が増加したと推測された。(p.689-697)
シロイヌナズナの酸化ストレス耐性における細胞膜タンパク質Oxidation-related Zinc Finger1 (AtOZF1)の生理機能の解析
Huang P, Chung M -S, Ju H -W, Na H -S, Lee D J, Cheong H -S, Kim C S (2011) Physiological characterization of the Arabidopsis thaliana Oxidation-related Zinc Finger 1, a plasma membrane protein involved in oxidative stress. J Plant Res 124:699-705CCCH型zinc fingerタンパク質AtOZF1は細胞膜に局在し、過酸化水素、アブシシン酸、塩ストレス処理により発現が誘導される。AtOZF1過剰発現体は酸化ストレス耐性を示し、atozf1変異体では過酸化脂質分解物の蓄積や、酸化ストレス下における抗酸化遺伝子発現の抑制が見られることから、AtOZF1はシロイヌナズナの酸化ストレス耐性に関与すると考えられる。(p.699-705)
謝辞
ACKNOWLEDGMENT. J Plant Res 124:707-708この1年間、論文審査に協力いただいた方々のお名前を記し、謝意を表す。(p.707-708)