2012年11月号 (Vol.125 No.6)
シロイヌナズナ生殖成長期における非コードRNAによる制御〜咲くか咲かぬか〜
Yamaguchi A, Abe M (2012) Regulation of reproduc-tive development by non-coding RNA in Arabidopsis: to flower or not to flower. J Plant Res 125:693-704植物は温度や日長といった環境要因、さらには齢や植物ホルモンといった内的な要因を感知し、花を咲かせるタイミングを決めている。最近の研究成果によって、花を咲かせるタイミングの決定に非コードRNAが関与していることが明らかになった。本総説では、こうした生殖成長期への転換を制御する非コードRNAの働きについて最新の知見を紹介する。(p.693-704)
緑色渦鞭毛藻Lepidodinium chlorophorum (NIES-1868)は、光合成補助色素プラシノキサンチンを持たない
Matsumoto T, Kawachi M, Miyashita H, Inagaki Y (2012) Prasinoxanthin is absent in the green-colored dinoflagellate Lepidodinium chlorophorum strain NIES-1868: pigment composition and 18S rRNA phylogeny. J Plant Res 125:705-711渦鞭毛藻Lepidodinium chlorophorumが持つ緑色葉緑体は、プラシノ藻類のみが持つ光合成色素プラシノキサンチンをもつと信じられてきたが、その実験データは公表されていなかった。本研究でL. chlorophorum培養株NIES-1868の色素解析を行なったところ、プラシノキサンチンは検出されなかった。(p.705-711)
オルガネラDNAの塩基配列を基に推定した北東アジアにおけるチョウセンゴヨウ(Pinus koraiensis)の系統地理
Aizawa M, Kim Z-S, Yoshimaru H (2012) Phylogeography of the Korean pine (Pinus koraiensis) in northeast Asia: inferences from organelle gene sequences. J Plant Res 125:713-723北東アジアの寒温帯林を構成するチョウセンゴヨウの分布変遷を、オルガネラDNAの塩基配列を基に推論した。その結果、現在、日本では稀な種であるが、かつて日本に大きな集団が存在していたこと、現在大陸部に広がる大きな集団が、氷期に形成された単一の集団に由来することが示唆された。(p.713-723)
ツルネラ科の2倍体が形成する2nの小胞子と同質4倍体の進化
Kovalsky IE, Neffa VGS (2012) Evidence of 2n microspore production in a natural diploid population of Turnera sidoides subsp. carnea and its relevance in the evolution of the T. sidoides (Turneraceae) autopolyploid complex. J Plant Res 125:725-734異型花柱をもつ多年草のTurnera sidoidesには倍数体が知られている。2倍体の花粉形成において、長花柱花、短花柱花ともに非減数の花粉がしばしば生じることを明らかにし、それが同質倍数化を引き起こしている可能性を示した。(p.725-734)
半島マレーシアの東南アジア熱帯雨林におけるガス交換パラメータの鉛直分布
Kosugi Y, Takanashi S, Yokoyama N, Philip E, Kam-akura M (2012) Vertical variation in leaf gas exchange parameters for a Southeast Asian tropical rainforest in Peninsular Malaysia. J Plant Res 125:735-748半島マレーシア熱帯雨林において、個葉ガス交換特性の鉛直分布を調べた。最大炭酸同化速度、気孔コンダクタンス、最大電子伝達速度、暗呼吸速度、葉面積当たり窒素量、LMAといったパラメータが、相互に明らかな相関を持ちつつ、各層の環境下で生存可能な値をとりながら高度とともに減少する様子が、観測と数値実験から明らかになった。(p.735-748)
シャジクモ類を用いた電気生理学的手法によるブロモキシニル(除草剤)の細胞に対する影響の研究
Shimmen T (2012) Further electrophysiological stud-ies on cellular effect of herbicide, bromoxynil, using characean cells. J Plant Res 125:749-754ブロモキシニルは細胞質酸性化により、起電性プロトンポンプを阻害する可能性をこれまで示唆してきた。しかし、流入したブロモキシニルが直接に起電性ポンプを阻害する可能性を否定できなかった。本研究において、ブロモキシニルが直接にプロトンポンプを阻害する可能性を完全に否定した。(p.749-754)
栽培ピーナッツ(Arachis hypogaea)のESTs : 種子の発生と青枯病菌Ralstonia solanacearumに対する応答に関わる遺伝子の発見
Huang J, Yan L, Lei Y, Jiang H, Ren X, Liao B(2012) Expressed sequence tags in cultivated peanut (Arachis hypogaea): discovery of genes in seed development and response to Ralstonia solanacearum challenge.J Plant Res 125:755-769栽培ピーナッツ(Arachis hypogaea)の発達中の種子・根・葉、及び青枯病菌Ralstonia solanacearumで処理した根・葉で発現するmRNA由来のcDNAライブラリーから計63,234個のESTを同定し、それらの推定機能を分類した。(p.755-769)
ケイ素欠乏がイネ葉身における二次細胞壁合成に与える影響
Yamamoto T, Nakamura A, Iwai H, Ishii T, Ma JF, Yokoyama R, Nishitani K, Satoh S, Furukawa J (2012) Effect of silicon deficiency on secondary cell wall synthesis in rice leaf. J Plant Res 125:771-779イネ (Oryza sativa L.)は典型的なケイ素集積植物であり、ケイ素の欠乏によって細胞壁が肥厚化する事が知られている。今回、ケイ素欠乏条件下における細胞壁組成や関連遺伝子の発現を解析した結果、二次細胞壁の合成が促進されていることが判明した。(p.771-779)
チャのピリジン代謝:サルベージ、抱合体形成及び異化
Ashihara H, Deng W-W (2012) Pyridine metabolism in tea plants: salvage, conjugate formation and catabolism. J Plant Res 125:781-792ピリジン代謝は生物種により異なるが、植物における代謝の詳細は不明であった。チャでは、ニコチンアミドはニコチン酸に代謝され、サルベージ経路によりNAD、 NADPの再生に利用される。また、一部はニコチン酸グルコシドに変換され、グルタル酸を経由して分解されることが明らかになった。(p.781-792)
大腸菌とタバコの亜鉛耐性に付与するサトイモ(Colocasia esculenta)の新規メタロチオネインとその活性部位
Kim Y-O, Lee YG, Patel DH, Kim HM, Ahn S-J, Bae H-J (2012) Zn tolerance of novel Colocasia esculenta metallothionein and its domains in Escherichia coli and tobacco. J Plant Res 125:793-804サトイモの2型メタロチオネイン(CeMT2b)を過剰発現するタバコは、亜鉛ストレス下で実生の生育がよく、H2O2レベルが低下し、亜鉛蓄積が上昇した。大腸菌でもCeMT2b過剰発現体は亜鉛耐性を促進し、亜鉛蓄積量を増加した。亜鉛耐性発現にはCNCモチーフが必要であり、C-末側よりもN-末側のポリペプチドが効果的であった。(p.793-804)
ショ糖緩衝液とガラスろ紙を用いた植物組織からの安全なDNA抽出法
Takakura KI, Nishio T (2012) Safer DNA extraction from plant tissues using sucrose buffer and glass fiber filter. J Plant Res 125:805-807STE緩衝液(0.25 M sucrose, 0.03 M Tris, 0.05 M EDTA)とガラスろ紙を用いた安全かつ低コストなDNA抽出法を提案した。得られるDNA溶液の純度はPCR実験に十分であることを、別法での抽出が困難な植物2種について示した。(p.805-807)
謝辞
J Plant Res 125:809-810この1年間、論文審査に協力いただいた方々のお名前を記し、謝意を表す。(p.809-810)