2013年05月号 (Vol.126 No.3)
新編集委員長のご挨拶
Nishida I (2013) From the new Editor-in-Chief: A sense of personal identity with the Journal of Plant Research. J Plant Res 126: 321-3222013年3月より就任した新編集委員長・西田生郎よりご挨拶を申し上げます。(p.321-322)
韓国鬱陵島における前進進化的種分化:オキノハウチワ(カエデ科)の空間的遺伝構造と遺伝的多様性
Takayama K, Sun B-Y, Stuessy TF (2013) Anagenetic speciation in Ullung Island, Korea: Genetic diversity and structure in the island endemic species, Acer takesimense (Sapindaceae). J Plant Res 126: 323-333前進進化的に種分化した海洋島固有種の遺伝構造を明らかにするため、鬱陵島固有種オキノハウチワと大陸産種チョウセンハウチワカエデの集団遺伝学的解析を行なった。オキノハウチワでは集団分化は見られず、大陸産種と比較してわずかに低い遺伝的多様性を保持していることが明らかとなった。(p.323-333)
韓国のスゲを含むカヤツリグサ亜科は初期に多様化した後、2つのグループに分かれた
Jung J, Choi H-K (2013) Recognition of two major clades and early diverged groups within the subfamily Cyperoideae (Cyperaceae) including Korean sedges. J Plant Res 126: 335-349カヤツリグサ科の81属426種についての分子系統解析により、カヤツリグサ亜科は初期に多様化した後、大きな2つのグループに分かれることが明らかになった。それぞれの内部に認識されたサブグループは既存の連によく対応している。韓国の10属についての系統学的な位置づけを明確にした(p.335-349)
バラ科サクラ属ウワミズザクラ亜属の多系統性と東アジア-北米東部の地理的隔離の形成について
Liu X-L, Wen J, Nie Z-L, Johnson G, Liang Z-S, Chang Z-Y (2013) Polyphyly of the Padus group of Prunus (Rosaceae) and the evolution of biogeographic disjunctions between eastern Asia and eastern North America. J Plant Res 126: 351-361ウワミズザクラ亜属の系統解析を行い、このグループが多系統群であり、バクチノキ亜属の構成種と混成した系統関係を構築することがわかった。一部の種群については、東アジア-北米東部の隔離年代について推定を行ない、2.99-4.1mya前である結果が得られた。 (p.351-361)
葉緑体バーコード領域および核遺伝子の塩基配列を用いたアフリカのイネ科キビ属の系統解析
Zimmermann T, Bocksberger G, Brüggemann W, Berberich T (2013) Phylogenetic relationship and molecular taxonomy of African grasses of the genus Panicum inferred from four chloroplast DNA-barcodes and nuclear gene sequences. J Plant Res 126: 363-371イネ科キビ属の分子系統解析を行ない、rbcLとmatKの2領域のみの解析でもバーコードの4領域の解析に匹敵することを明らかにし、核のppc遺伝子のアミノ酸配列解析の結果とも一致することを示した。また、西アフリカのキビ属植物にはNAD-ME型のC4光合成のみが存在することがわかった。(p.363-371)
北米サボテン連 (Cactaceae)に属する種における種子サイズと光発芽
Rojas-Aréchiga M, Mandujano MC, Golubov JK (2013) Seed size and photoblastism in species be-longing to tribe Cacteae (Cactaceae). J Plant Res 126: 373-386これまで乾燥地に生育する植物種において種子サイズと光発芽性の関係の進化的な意義について十分な研究がなされていなかった。著者らは北サボテン連に属する54種について、光発芽応答性と種子の特性との関係を調べ、再構築された系統樹を用いてこれを解析した。(p.373-386)
シロイヌナズナ重複受精における配偶子膜ダイナミクス解析
Igawa T, Yanagawa Y, Miyagishima S, Mori T (2013) Analysis of gamete membrane dynamics during double fertilization of Arabidopsis. J Plant Res 126: 387-394シロイヌナズナの配偶子細胞の膜を蛍光タンパク質で可視化したマーカーラインを作出した。これらマーカーラインを用いて、重複受精時の配偶子膜ダイナミクスをライブセルイメージングによって解析した結果、重複受精において雌雄の配偶子原形質膜の融合が起きていることが示された。(p.387-394)
狭葉ルピナス(Lupinus angstifolius)の種子貯蔵タンパク質を制御する染色体領域の同定
Li X, Islam S, Yang H, Ma W, Yan G (2013) Identification of chromosome regions controlling seed storage proteins of narrow-leafed lupin (Lupinus angustifolius). J Plant Res 126: 395-401狭葉ルピナスは高いタンパク含有量をもつ有用なマメ科作物である。マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法を用いて、組換え近交系89個体の種子貯蔵タンパク質を分析した。その結果、48のタンパク質ピークの多型が検出され、そのうちの7つは4つの連鎖地図上にマップされた。 (p.395-401)
シロイヌナズナのペンタトリコペプチドリピートタンパク質 SVR7の遺伝子破壊は、葉緑体ATPアーゼサブユニットの蓄積と翻訳を阻害する
Zoschke R, Qu Y,Zubo YO,Börner T,Schmitz-Linneweber C (2013) Mutation of the pentatricopeptide repeat-SMR protein SVR7 impairs accumulation and translation of chloroplast ATP synthase subunits in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 126:403-414ペンタトリコペプチドリピート(PPR)タンパク質は植物に普遍的に存在し、オルガネラの機能発現で重要なはたらきをする。本論文では、核から葉緑体に移行してはたらくシロイヌナズナPPRの一種SVR7が、葉緑体 ATPaseサブユニットの翻訳で働くことを見いだした。(p.403-414)
植物のストレス耐性能におけるグリオキシラーゼⅠの関与
Wu C, Ma C, Pan Y, Gong S, Zhao C, Chen S, Li H (2013) Sugar beet M14 glyoxalase I gene can enhance plant tolerance to abiotic stresses. J Plant Res 126:415-425グリオキシラーゼは、メチルグリオキサールの解毒系酵素の一つである。テンサイのグリオキシラーゼⅠ遺伝子を導入した形質転換タバコでは、メチルグリオキサール、塩化ナトリウム、マンニトール、過酸化水素に対して耐性能が向上していることが明らかになった。(p.415-425)
トマトの落花・落果期における離層の細胞壁多糖分布の変化
Iwai H, Terao A, Satoh S (2013) Changes in distribution of cell wall polysaccharides in floral and fruit abscission zones during fruit development in tomato (Solanum lycopersicum). J Plant Res 126: 427-437トマトでは受粉に失敗した時、花は離層から脱離する。また、果実発達過程では離層組織が発達し落果を防ぐが、完熟した果実では離層で簡単に落果する。本論文では、器官脱離時の離層で、細胞壁の再編成が生じること、落花と落果では異なる細胞壁再編がされていることを示した。(p.427-437)
オオシャジクモにおける膨圧上昇シグナルの電気シグナルへの変換
Shimmen, T, Ogata K (2013) Transduction of pressure signal to electrical signal upon sudden increase in turgor pressure in Chara coralline. J Plant Res 126: 439-446オオシャジクモの節間細胞をDMSOを含む人工池水に入れると、直ちに膨圧が低下した。DMSOが細胞内に流入することにより、2時間程度で膨圧が回復した。DMSOを含まない人工池水に入れると、一次的な膨圧上昇が起こった。この時に発生する膜電位の変化を解析した。 (p.439-446)