2013年07月号 (Vol.126 No.4)
樹木および森林生態系における温暖化実験研究(総説)
Chung H, Muraoka H, Nakamura M, Han S, Muller O, Son Y (2013) Experimental warming studies on tree species and forest ecosystems: a literature review. J Plant Res 126 (4) 447-460温度は森林生態系のあらゆる機能やその生態学的プロセスに影響を及ぼす。これらの影響を実験的に解明し、予測することが重要な研究課題となっている。本論文では北方ならびに温帯の樹木や森林における野外温暖化実験の知見を集約し、今後必要とされる研究の方向性を論じた。(p.447-460)
フローサイトメトリ--で計測したLessingianthus属(キク科ショウジョウハグマ連)数種の核DNA量
Angulo MB, Dematteis M (2013) Nuclear DNA content in some species of Lessingianthus (Vernonieae, Asteraceae) by flow cytometry. J Plant Res 126(4) 461-468南米に生育するLessingianthus属(キク科ショウジョウハグマ連)25種の核DNA量を決定した結果、倍数性が増加するにつれ、1倍体あたりのゲノム量が減少する傾向があることが示された。また、L. polyphyllusの新たなサイトタイプが見つかった。(p.461-468)
ゼンマイとヤシャゼンマイの自然推定雑種から作成した倍加半数体集団における分離比の歪みの解析
Yatabe-Kakugawa Y, Tsutsumi C, Hirayama Y, Tsuneki S, Murakami N, Kato M (2013) Transmission ratio distortion of molecular markers in a doubled haploid population originated from a natural hybrid between Osmunda japonica and O. lancea. J Plant Res 126:469-482雑種由来の倍加半数体を解析することによって得られた遺伝地図上の2領域で大きな分離比の歪みが見られた。配偶体集団やF2雑種集団もあわせて解析したところ、片方の領域ではゼンマイの対立遺伝子のホモ接合体の生存率が著しく低く、自配受精を妨げる効果があることが示された。(p.469-482)
葉緑体DNA(psbA-trnH)と核rDNAのITS領域を用いた新世界のアキギリ属Calosphace亜属(シソ科)の分子系統解析
Jenks AA, Walker JB, Kim S-C (2013) Phylogeny of New World Salvia subgenus Calosphace (Lamiaceae) based on cpDNA (psbA-trnH) and nrDNA (ITS) sequence data. J Plant Res 126:483-496約500種からなるアキギリ属Calophace亜属に認められる91節のうち73節から選んだサンプルを用いて分子系統解析を行なった。亜属の起源がメキシコであること、南米に知られる隔離分布は7回以下の移住で説明できることなどが示された。(p.483-496)
アルゼンチン・パタゴニアの乾燥地域における4種の葉群動態
Campanella MV, Bertiller MB (2013) Leaf growth dynamics in four plant species of the Patagonian Monte, Argentina. J Plant Res 126 (4) 497-503パタゴニアの乾燥地域で同所的に分布する常緑禾本と常緑灌木の2種づつの葉群動態が、環境要因とともに観測された。葉やシュートの成長は降雨イベントには影響されておらず、主に季節的な気温変化と土壌表層の水分変化と関係があった。また、種によって大きな違いがあった。(p.497-503)
乾季のないボルネオ島熱帯雨林における炭素配分
Katayama A, Kume T, Komatsu H, Saitoh TM, Ohashi M, Nakagawa M, Suzuki M, Otsuki K, Kumagai T (2013) Carbon allocation in a Bornean tropical rainforest without dry seasons. J Plant Res 126 (4) 505-515乾季のないボルネオ島熱帯雨林において、地上部純一次生産量、地上部植生呼吸量、地下部(根)への炭素配分量、及びその和である総生産量を推定した。その結果、乾季がないことにより予測される炭素配分とは異なり、地下部への炭素配分量が非常に大きいという特徴的な炭素配分が明らかとなった。(p.505-515)
アイスプラントのアクアポリンMcMIPBを過剰発現させたタバコにおける土壌水分欠乏および高VPDに対する光合成応答
Kawase M, Hanba YT, Katsuhara M (2013) The photosynthetic response of tobacco plants overexpressing ice plant aquaporin McMIPB to a soil water deficit and high vapor pressure deficit. J Plant Res 126:517-527アクアポリンの中には、CO2透過性を持ち光合成を促進するものがある。本論文では新たにアイスプラントのアクアポリンMcMIPBが葉のCO2透過性、光合成、成長を促進することを示した。さらに、McMIPBは土壌水分欠乏に対する気孔の応答性を低下させることが示唆された。(p.517-527)
メキシコのバンレイシ科樹種の成長とアルカロイド含有量の季節変化
Castro-Moreno M, Tinoco-Ojangurén CL, Cruz-Ortega MR, González-Esquinca AR (2013) Influence of seasonal variation on the phenology and liriodenine content of Annona lutescens (Annonaceae). J Plant Res 126 (4) 529-537バンレイシ科樹種のアルカロイド、リリオデニンについて、葉・茎・根の器官別の濃度の季節変化とフェノロジーとの関係が若木と成熟木で測定された。乾期の落葉時に根のリリオデニン濃度が急激に高まり、雨期の葉の展葉時に低下した。繁殖成長の有無も濃度変化に影響していた。(p.529-537)
アブラヤシの種子発達にともなう生化学成分の解析
Kok S-Y, Namasivayam P, Ee GC-L, Ong-Abdullah M (2013) Biochemical characterisation during seed development of oil palm (Elaeis guineensis). J Plant Res 126 (4) 539-547アブラヤシは、種子発達初期に水分、ヘキソース、カルシウム、マグネシウム含量が高く、細胞増殖を促進する環境となっている。受粉10週後には、乾燥重量の増大が始まり、ヘキソース/ショ糖比の低下とラウリン酸の蓄積が始まる。成分分析結果は、胚培養の培地調製に有用である。(p.539-547)
ホウレンソウ(Spinacia oleracea) Y染色体のマイクロダイセクションと染色体ペインティング
Deng C, Qin R, Cao Y, Gao J, Li S, Gao W, Lu L (2013) Microdissection and painting of the Y chromosome in spinach (Spinacia oleracea). J Plant Res 126(4) 549-556マイクロダイセクション法によって、ホウレンソウの最も大きい染色体を取り出してPCRで増幅し、雄に特異的なマーカーT11Aを使用して、取り出した染色体がY染色体であることを分子レベルで直接的に証明した。また、PCR産物を使ってY染色体のペインティングを行なった。(p.549-556)
集合反応中の葉緑体は光受容体からの信号を常に感知しながら動いている
Tsuboi H, Wada M (2013) Chloroplasts continuously monitor photoreceptor signals during accumulation movement. J Plant Res 126 (4) 557-566暗順応した細胞の2カ所に同強度同サイズの微光束を短時間同時照射し葉緑体の集合反応を誘導した。微光束から等距離にある葉緑体は2つの微光束の中間に移動した。この動きの解析から、光受容体からの信号は約10秒に一度の周期で放出される波として伝わると考えられた。(p.557-566)
マサキの生育に対する水質の影響
Gómez-Bellot MJ, Álvarez S, Castillo M, Bañón S, Ortuño MF, Sánchez-Blanco MJ (2013) Water relations, nutrient content and developmental responses of Euonymus plants irrigated with water of different degrees of salinity and quality. J Plant Res 126(4) 567-576環境水の汚染は植物の生育阻害を引き起こし、食糧生産量の低下要因となっている。本論文では、汚染水に対するマサキの生理的応答を長期追跡し、塩水との比較実験により、汚染水生育阻害の特性を調べた。モデル実験の結果をもとに、汚染水の活用基準について考察する。(p.567-576)
光変換型蛍光タンパク質を利用したヒメツリガネゴケ原糸体における原形質連絡を介する指向性分子輸送の定量的イメージング
Kitagawa M, Fujita T (2013) Quantitative imaging of directional transport through plasmodesmata in moss protonemata via single-cell photoconversion of Den-dra2. J Plant Res 126 (4) 577-585ヒメツリガネゴケ原糸体と光変換型蛍光タンパク質を組み合わせ、原形質連絡(PD)を介する高分子の細胞間移動について細胞レベルでの定量解析を行なった。原糸体において分子はPDを介し方向性を持って輸送されており、この指向性分子輸送は光合成や代謝活性の変化に影響を受けるようだ。(p.577-585)