JPR和文要旨バックナンバー

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2014年03月号 (Vol.127 No.2)

古植物学:植物多様性に関する古くて新しい話

Yamada T, Nishida H (2014) Palaeobotany: Old but new stories on plant diversity. J Plant Res 127:185−186

本特集は,2012年8月に東京で開催された第13回国際花粉学会議/第9回国際古植物学会議を記念して企画された。Journal of Plant Researchは古植物学と現生植物学の接点を提供する重要な雑誌であり,本企画が両分野の交流を促進することを望む。(p.185-186)

中新世の日本と北米西部に共存した新属の翼果Ozakia

Manchester SR, Uemura K (2014) Ozakia, a new genus of winged fruit shared between the Miocene of Japan and western North America. J Plant Res 127: 187-192

Heptacodium(スイカズラ科)やザイフリボク属(バラ科)とされた中新世(新第三紀)の翼果化石を再検討した。子房下位で有柄の果実は5裂合片の萼、宿存する花柱を有し、これを絶滅新属Ozakiaとして報告した。本属の分布はベーリング陸橋経由による、東アジア-北米西部の中新世隔離分布と考えられる。(p.187-192)

日本産新生代マツ亜節(マツ科マツ属)の化石記録

Yamada T, Yamada M, Tsukagoshi M (2014) Fossil records of subsection Pinus (genus Pinus, Pinaceae) from the Cenozoic in Japan. J Plant Res 127:193−208

日本産マツ亜節(マツ科マツ属)の化石記録を再検討し,アカマツおよびクロマツが更新世のはじめ頃に出現したことを明らかにした.また,クロマツの祖先となった化石種はフジイマツであり,フジイマツは中新世初期に大陸に分布する種から分化したことがわかった。(p.193-208)

中国東北部遼寧産ジュラ紀のゼンマイ科シダ植物Ashicaulisの特異な新種

Tian N, Wang Y-D, Philippe M, Zhang W, Jian Z-K, Li L-Q (2014) A specialized new species of Ashicaulis (Osmundaceae, Filicales) from the Jurassic of Liaoning, NE China. J Plant Res 127: 209-219

中国遼寧省の中期ジュラ紀髫髻山(Taojishan)層から産出したシダ類の根茎を,ゼンマイ科の化石属Ashicaulisの新種,A. plumitesとして記載した。葉柄基部横断面の髄組織にみられる硬壁組織が線形からキノコ形となる点がキゼンマイ科では特異で,当時は現在よりも形態の多様性が高かったと考えられる。(p.209-219)

外帯日本の上部バレミアン〜アプチアン西広層パリノフロラと日本における被子植物の出現時期

Legrand J, Yamada T, Nishida H (2014) Palynofloras from the upper Barremian-Aptian Nishihiro Formation (Outer Zone of southwest Japan) and the appearance of angiosperms in Japan. J Plant Res 127: 221-232

和歌山県に分布する下部白亜系物部川層群西広層から、シダ類、小葉類、セン類の胞子を主体とし、針葉樹目やベネチテス目/ソテツ目の裸子植物花粉と、Retimonocolpites属の被子植物花粉を含むパリノフロラを記載した。日本最古の被子植物の確実な記録で、東アジアでの被子植物出現時期の基準となる(p.221-232)

オーストラリア,クウィーンズランド産鉱化化石に基づくGlossopteris生殖器官の新証拠II:花粉産生器官の新属Ediea

Nishida H, Pigg KB, Kudo K, Rigby JF (2014) New evidence of the reproductive organs of Glossopteris based on permineralized fossils from Queensland, Australia. II: pollen-bearing organ Ediea gen. nov. J Plant Res 127: 233-240

オーストラリア産ペルム紀後期の絶滅裸子植物Glossopterisの花粉産生器官を,新属Edieaとして記載した。印象化石として知られるEretmonia型雄性生殖器官が主軸上にらせん配列し,さらに栄養葉に囲まれて全体として小胞子嚢穂となる。花粉嚢は各生殖葉の向軸側に2列に生ずる二叉分枝系上に頂生する。(p.233-240)

Hatena arenicola(カタブレファリス植物門)の共生藻Nephroselmis(緑色植物門ネフロセルミス藻綱)の分子的多様性

Yamaguchi H, Nakayama T, Hongoh Y, Kawachi M, Inouye I. (2014) Molecular diversity of endosymbiotic Nephroselmis (Nephroselmidophyceae) in Hatena arenicola (Katablepharidophycota) J Plant Res 127: 241-247

Hatena arenicolaの細胞内共生藻Nephroselmisの分子的多様性を調べた。葉緑体コード16S rRNA遺伝子を調べた結果、H. arenicolaはN. rotundaに近縁な共生藻を少なくとも3系統受け入れることが示唆された。(p.241-247)

ITS配列を用いた中国産ユリ属の分子系統と遺伝的変異

Du Y-P, He H-B, Wang Z-X, Li S, Wei C, Yuan X-N, Cui Q, Jia G-X (2014) Molecular phylogeny and genetic variation in the genus Lilium native to China based on the internal transcribed spacer sequences of nuclear ribosomal DNA. J Plant Res 127: 249-263.

核DNAのITS領域を用いた中国原産44種を含む98種5変種の分子系統解析により,ユリ属を4つのグループに分けることができた.また,FISH法による核型解析と合わせて解析することで,属内分類群の再検討を行い,中国産ユリ属に5つの節を認めることができた。(p.249-263)

ゲンノショウコ(フウロソウ科)における,花色多型に相関したゾウムシの食害

Takashi Tsuchimatsu, Hiraku Yoshitake, Motomi Ito (2014) Herbivore pressure by weevils associated with flower color polymorphism in Geranium thunbergii (Geraniaceae) J Plant Res 127: 265-273.

ゲンノショウコ(フウロソウ科)には白色・桃色の花色多型が知られている.中部日本における野外調査の結果,トゲトゲクロサルゾウムシの成虫は白色個体を好んで訪花し産卵すること,幼虫による食害は白色個体の方が多いことを発見した.花色と食害になぜ相関が見られるのか,花色多型がどのように維持されうるかについて考察を行った。(p.265-273)

Allium属Cyathophora亜属および近縁分類群(ヒガンバナ科)の系統的再評価と2新亜節の提唱

Yahya AF, Hyun JO, Lee JH, Kim YY, Lee KM, Hong KN, Kim SC (2014) Genetic variation and population genetic structure of Rhizophora apiculata (Rhizophoraceae) in the greater Sunda Islands, Indonesia using microsatellite markers. J Plant Res 127: 287-297.

核および葉緑体のDNA塩基配列に基づきAllium属Cyathophora亜属とその近縁分類群(ヒガンバナ科)の系統推定を行った結果,Cyathophora亜属が多系統的であることが分かった。そのため,他の亜属とクレードを形成した2種に対し,新節を提唱する。(p.275-286)

インドネシア大スンダ列島におけるフタバナヒルギの遺伝的変異と集団構造

Yahya AF, Hyun JO, Lee JH, Kim YY, Lee KM, Hong KN, Kim SC (2014) Genetic variation and population genetic structure of Rhizophora apiculata (Rhizophoraceae) in the greater Sunda Islands, Indonesia using microsatellite markers. J Plant Res 127: 287-297

5つのマイクロサテライト遺伝子座を用いた解析の結果,列島内側の集団の遺伝的多様性の方が列島外側の集団より大きいことが明らかになった.遺伝的構造からSunda Shelfの3つのグループとNew Guineaの1つのグループが認められたが,これらは海流の移動方向の影響によって成立したことが示唆される.(p.287-297)

独立栄養植物と菌従属栄養植物の雑種の世界初開花

Ogura-Tsujita Y, Miyoshi K, Tsutsumi C, Yukawa T (2014) First flowering hybrid between autotrophic and mycoheterotrophic plant species: breakthrough in molecular biology of mycoheterotrophy. J Plant Res 127: 299-305.

ラン科シュンラン属の菌従属栄養植物マヤランと同属の近縁種である独立栄養植物スルガランを交配し,雑種をインビトロで開花させることに成功した。これらの栄養摂取様式間の雑種の初開花例となる。本雑種は菌従属栄養性の進化に関わる遺伝機構解明へ大きく貢献すると期待される。(p.299-305)

南米南部に自生する木本タケ類の開花周期

Carolina Guerreiro (2014) Flowering cycles of woody bamboos native to southern South America J Plant Res 127: 307-313.

タケ類は周期的に一斉開花することが知られている。新熱帯の木本タケ類16種について、文献や標本から得た情報を参考に解析したところ、多くの種は約30年周期で一斉開花していると推定された。また、複数の種が同調的に一斉開花する現象が、南米のタケ類から初めて発見された。(pp. 307−313)(p.307-313)

さまざまな遷移段階の在来樹種と侵入種の窒素パルスへの反応と低窒素条件での生長の違い

Osone Y, Yazaki, K, Takeshi M, Ishida A (2014) Responses to nitrogen pulses and growth under low nitrogen availability in invasive and native tree species with differing successional status. J Plant Res 127:315-328

森 林の撹乱は一時的な土壌窒素の増加をもたらす。本研究では,小笠原の侵入種アカギがこの窒素パルスに対し在来パイオニア種と同等 の素早い生理・形態の応答を示す一方,低窒素においては在来遷移後期種なみの堅実な成長をすることを明らかにし,本種の侵入メカ ニズムを推測した。 (p.315-328)

日本の中部地方の4種の亜高山帯針葉樹の林冠下の稚樹の成長,アロメトリーと耐陰性

Takahashi K, Obata Y (2014) Growth, allometry and shade tolerance of understory saplings of four subalpine conifers in central Japan. J Plant Res 127:329-338

亜高山帯で優占する4種の針葉樹(シラビソ,オオシラビソ,コメツガ,トウヒ)は,耐陰性や分布する土壌環境が異なる.本論文では,地上部と地下部の樹形の構築様式や葉の寿命の種間差が,4種の更新特性に反映していたことを明らかにした。(p.329-338)

異なる時期の開放系オゾン暴露に対するウダイカンバの光合成応答

Watanabe M, Hoshika Y, Koike T (2014) Photosynthetic responses of Monarch birch seedlings to differing timings of free air ozone fumigation. J Plant Res 127:339−345

対流圏のオゾンは植物の光合成に悪影響を与える大気汚染物質である。本論文では、オゾンに対するウダイカンバの葉における光合成応答が時期によって異なることを見いだした。そして、オゾンに対する気孔の応答が一貫しない事がその原因である事を明らかにした。(p.339-345)

無機ストレスに対するポプラのガラクチノール合成酵素遺伝子の応答

Jie Zhou, Yang Yang, Juan Yu, Like Wang, Xiang Yu, Misato Ohtani, Miyako Kusano, Kazuki Saito, Taku Demura, Qiang Zhuge (2014) Responses of Populus trichocarpa galactinol synthase genes to abiotic stresses J Plant Res 127:347−358

ガラクチノール合成酵素は、無機ストレスで蓄積が誘導されるラフィノース属オリゴ糖の合成の最初のステップを触媒する。そのポプラにおける遺伝子発現は塩ストレスでは1日以内において促進されたが、水欠乏ストレスでは2日以降でも促進され、葉におけるガラクチノールの増加が乾燥ストレス4日以降に見られることと一致していた。(p.347-358)

ブドウの花序発達期におけるジベレリン投与の有無によるジベレリン酸化酵素遺伝子の発現の変化

Chan Jin Jung, Youn Young Hur, Sung-Min Jung, Jung-Ho Noh, Gyung-Ran Do, Seo-June Park, Jong-Chul Nam, Kyo-Sun Park, Hae-Sung Hwang, Doil Choi, Hee Jae Lee (2014) Transcriptional changes of gibberellin oxidase genes in grapevines with or without gibberellin application during inflorescence development J Plant Res 127:358−374

ジベレリンの投与は種無しブドウを誘導することが知られており、開花2週間前にジベレリンを投与すると、子房が肥大し、受粉時に花粉管の伸長が阻害された。その際、開花期およびその前後においてジベレリン不活性化酵素の発現が促進されるとともに、開花期におけるジベレリン合成酵素の発現が抑制された。(p.359-374)

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