2014年05月号 (Vol.127 No.3)
広義のイチイ科における葉の解剖学的特徴とその系統学的意味
Ghimire B, Lee C, Heo K (2014) Leaf anatomy and its implications for phylogenetic relationships in Taxaceae s. l. J Plant Res 127:373−388広義のイチイ科は、狭義のイチイ科(Taxus属、Austrotaxus属、Pseudotaxus属、Amentotaxus属、Torreya属)にCephalotaxus属を加えた6属からなる。本論文では、葉の組織と気孔の構造を比較し、分類学的扱いを議論した。(p.373-388)
単細胞紅藻チノリモ(Porphyridium purpureum)の葉緑体ゲノムの解析
Naoyuki Tajima, Shusei Sato, Fumito Maruyama, Ken Kurokawa, Hiroyuki Ohta, Satoshi Tabata, Kohsuke Sekine, Takashi Moriyama, Naoki Sato (2014) Analysis of the complete plastid genome of the unicellular red alga Porphyridium purpureum. J Plant Res 127:389-397Porphyridium purpureumの葉緑体ゲノムを解読した。多くのイントロンを持つこと、rRNAオペロンの構造やリボソームタンパク質遺伝子クラスターの並びが独特であることから、他の紅藻から分岐した後で大規模なゲノムの再編成が起きたことが示唆された。(p.389-397)
日本のセイヨウタンポポにおける花芽形成の高温に対する感受性の緯度的変異
Yoshie F (2014) Latitudinal variation in sensitivity of flower bud formation to high temperature in Japanese Taraxacum officinale. J Plant Res 127: 399-412セイヨウタンポポの花芽形成の温度反応とその緯度的変異について調査した。その結果、花芽形成は高温で抑制され、その抑制度合いは緯度の低下と共に減少することがわかった。この高温に対する感受性の低下は、気温の上昇による開花期間の減少を防ぐ適応的な変異と考えられた。(p.399-412)
ディオ-ン エデュ-レ(ザミア科)幼植物の発芽後日数と水ストレス耐性
Laura Yáñez-Espinosa, Joel Flores Paulina S. Rodríguez Millán, Gabriel Rubio Méndez (2014) Influence of germination date on Dioon edule (Zamiaceae) seedling tolerance to water stress. J Plant Res 127:413−422乾燥地に生育するソテツの仲間Dioon eduleは希少種である。幼植物の乾燥環境での生育と生理を調べたところ、この植物が乾燥耐性を充分に発揮してその生存率を高めるためには、発芽後に葉が充分に展開する日齢に達していることが必要であるとわかった。(p.413-422)
単子葉植物イネにおける糖転移酵素GT47Aの機能保存
Baolong Zhang, Tongmin Zhao, Wengui Yu, Beiqing Kuang, Yuan Yao, Tingli Liu, Xiaoyang Chen, Wenhua Zhang, Ai-Min Wu (2014) Functional conservation of the glycosyltransferase gene GT47A in the monocot rice J Plant Res 127:423−432単子葉植物においてグルクロノアラビノキシランは主要なヘミセルロース成分だが、その生合成酵素の遺伝子は明らかになっていなかった。シロイヌナズナのキシラン合成酵素IRX10のイネホモログGT47Aは、シロイヌナズナのキシラン合成酵素変異体の成長や2次壁合成を相補したことから、イネにおけるこの酵素の機能的保存性が明らかとなった。(p.423-432)
酸素欠乏はPHR2過剰発現イネにおけるリン酸過剰蓄積の害を緩和する
Shuai Li, Chuang Wang, Lian Zhou, Huixia Shou (2014) Oxygen deficit alleviates phosphate overaccumulation toxicity in OsPHR2 overexpression plants J Plant Res 127:433−440リン酸吸収に関わる転写制御因子PHR2の過剰発現イネはリン酸過剰蓄積の害を受けるが、冠水した泥やよどんだ水耕液に植えると緩和される。その原因は酸素欠乏がリン酸の取り込みを阻害するからで、イネにおいてリン酸利用効率を評価する際には水耕液や泥の酸素状態を考慮する必要がある。(p.433-440)
草原における生産性の勾配に沿った光と窒素の利用と地上部バイオマスの分配パターンの変化
Anne Aan, Krista Lõhmus, Arne Sellin, Olevi Kull (2014) Changes in light- and nitrogen-use and in aboveground biomass allocation patterns along productivity gradients in grasslands J Plant Res 127:441−453地上部葉面積比は地上部バイオマスが増えるにしたがって乾燥地では減少し、湿潤地では増加した。高地上部葉面積比を有する集団と低地上部葉面積比を有する集団の比較から、地上部葉面積比の減少が地上部バイオマスの増加に対する共通の応答ではないことが分かった。(p.441-453)
インゲンマメの鉄欠乏耐性における根粒の役割
Slatni T, Salah IB, Kouas S, Abdelly C (2014) The role of nodules in the tolerance of common bean to iron deficiency. J Plant Res 127:455−465鉄はマメ科植物の根粒共生の成立と機能に必須である。鉄欠乏に対する根粒の役割を解明するために、インゲンマメの鉄欠乏耐性と感受性品種を用い、地下部を水耕液で完全にあるいは部分的に満たした植物の鉄欠乏に対する応答を検討した。その結果、根粒特有の鉄吸収機構の存在が示唆された。(p.455-465)