2014年11月号 (Vol.127 No.6)
ミヤコグサ野生集団におけるE1、GIの多型
Tomomi Wakabayashi, Hana Oh, Masayoshi Kawaguchi, Kyuya Harada, Shusei Sato, Hajime Ikeda, Hiroaki Setoguchi (2014) Polymorphisms of E1 and GIGANTEA in wild populations of Lotus japonicas J Plant Res 127:651−660
植物にとって開花のタイミングは重要であるが、ダイズの開花関連遺伝子で特に重要なものにE1とGmGIがある。ミヤコグサ(マメ科)は日本に広く分布し、播種から開花までの日数が多様化している。本研究では野生集団のLjE1、LjGIの多型と自然選択に関して考察した。(p.651-660)
イタチシダ類(オシダ科)における無配生殖種と有性生殖種の交雑による網状進化
Kiyotaka Hori, Akitaka Tono, Kazuto Fujimoto, Juntaro Kato, Atsushi Ebihara, Yasuyuki Watano, Noriaki Murakami (2014) Reticulate evolution in the apogamous Dryopteris varia complex (Dryopteridaceae, subg. Erythrovariae, sect. Variae) and its related sexual species in Japan J Plant Res 127:661−684
イタチシダ類Dryopteris varia complexは、無性生殖の一型である無配生殖を行う種を多く含み、形態変異が大きくて外部形態による種分類が困難なシダ植物群である。本論文では、こ の群における無配生殖種と有性生殖種の交雑による複雑な網状進化を明らかにした(p.661-684)
サクライソウ科の光合成種オゼソウと菌従属栄養性種サクライソウにおける菌根菌に対する特異性の顕著な違い
Masahide Yamato, Yuki Ogura-Tsujita, Hiroshi Takahashi, Tomohisa Yukawa (2014) Significant difference in mycorrhizal specificity between an autotrophic and its sister mycoheterotrophic plant species of Petrosaviaceae. J Plant Res 127:685−693
菌従属栄養性種であるサクライソウの菌根共生では特定のアーバスキュラー菌根菌群との間に高い特異性がみられるが、光合成種のオゼソウでは多様な菌群との 間に共生関係が認められた。その中にはサクライソウの菌根菌の系統群に含まれるものも見出され、菌従属栄養性の進化の過程で特定の菌群が選択されたことが 示唆された。(p.685-693)
トマトSlTIP2;2はシロイヌナズの耐塩性は向上させ、いくつかのタンパクと相互作用を示す
Shichao Xin, Guohong Yu, Linlin Sun, Xiaojing Qiang, Na Xu, Xianguo Cheng (2014) Expression of tomato SlTIP2;2 enhances the tolerance to salt stress in the transgenic Arabidopsis and interacts with target proteins J Plant Res 127: 695−708
トマトの液胞膜型アクアポリンSlTIP2;2を発現させたシロイヌナズナではNaとKの輸送が変化してイオン恒常性が強化され耐塩性が向上した。抗酸化酵素活性にも影響があった。またSlTIP2;2タンパクは他のTIPや輸送体タンパクと相互作用することが示された。(p.695-708)
近畿地方におけるタブノキの分布拡大と系統の混合
Shuntaro Watanabe, Yuko Kaneko, Yuri Maesako, Naohiko Noma (2014) Range expansion and lineage admixture of the Japanese evergreen tree Machilus thunbergii in central Japan J Plant Res 127:709−720
琵琶湖周辺に特異的に残存するタブノキについて、核SSRマーカーによる遺伝構造推定をおこなった。その結果、1)琵琶湖周辺には、太平洋側と日本海側の 2つの系統およびその混合系統が存在すること、 2)沿岸部から琵琶湖周辺に分布拡大する際に創始者効果を経験したこと、が明らかになった。 (p.709-720)
植物界で初めて見いだされたシュウ酸カルシウム束晶の新規で珍しい形態
Vijayasankar Raman, Harry T. Horner, Ikhlas A. Khan (2014) New and unusual forms of calcium oxalate raphide crystals in the plant kingdom J Plant Res 127:721-730
植物のシュウ酸カルシウムの結晶には、束晶、集晶、砂晶など5つの形態があり、さらに束晶を構成する針状結晶には4つの異なる型があって、種組織特異性を 示す。今回ヤマノイモ属の1種の塊根から2種の新しい型の束晶が見いだされ、結晶内に層状構造を有するという特徴を示した(p.721-730)
ヤエナリ根における鉄欠乏とカドミウム存在下での鉄吸収に関係する転写および生理的変化
Muneer S, Jeong BR, Kim T-H, Lee JH, Soundararajan P (2014) Transcriptional and physiological changes in relation to Fe uptake under conditions of Fe-deficiency and Cd-toxicity in roots of Vigna radiata L. J Plant Res 127:731−724
ヤエナリ根ではCd処理により酸化ストレスが誘導されFe含量の低下とCd蓄積がおこる。このCdの毒性はFe添加により緩和された。Cd存在下でFe輸 送系やFe吸収に関係する遺伝子発現の一過的な上昇が観察され、FeによるCd毒性の抑制があると考えられた。(p.731-724)
うどんこ病抵抗性を示す新しいコムギ-ライムギ転座系統(5DS-4RS•4RL, 4RS-5DS•5DL)
Shulan Fu, Zhenglong Ren, Xiaoming Chen, Benju Yan, Feiquan Tan, Tihua Fu, Zongxiang Tang (2014) New wheat-rye 5DS-4RS•4RL and 4RS-5DS•5DL translocation lines with powdery mildew resistance. J Plant Res 127:743−753
うどんこ病は、コムギ(AABBDDゲノム)の深刻な病気の一つです。一方、ライムギ(RRゲノム)はコムギ育種に向けたうどんこ病抵抗性遺伝子を豊富に 持つ。本研究では、うどんこ病抵抗性を示す新しい転座系統(5DS-4RS•4RLと4RS-5DS•5DL)を特定した。(p.743-753)
マングローブ3種、マヤプシキ、ベニマヤプシキ、マルバマヤプシキの液体培養細胞の耐塩性とアレロパシー活性との逆相関:アレロパシーのバイオアッセイ法、プロトプラスト共培養法の開発
Ai Hasegawa, Tomoya Oyanagi, Reiko Minagawa, Yoshiharu Fujii, Hamako Sasamoto (2014) An inverse relationship between allelopathic activity and salt tolerance in suspension cultures of three mangrove species, Sonneratia alba, S. caseolaris and S. ovata: development of a bioassay method for allelopathy, the protoplast co-culture method J Plant Res 127:755−761
マングローブ3種、マヤプシキ、ベニマヤプシキ、マルバマヤプシキ液体培養細胞を用いた5種の塩、NaCl, KCl, MgCl2, MgSO4, CaCl2に対する耐塩性試験と、アレロパシーのインビトロバイオアッセイ法―プロトプラスト共培養法の開発により、耐塩性とアレロパシー活性の逆相関を 見出した。(p.755-761)
スペルミジンは塩ストレス下で見られる光合成阻害を軽減する
Sheng Shu, Lifang Chen, Wei Lu, Jin Sun, Shirong Guo, Yinhui Yuan, Jun Li (2014) Effects of exogenous spermidine on photosynthetic capacity and expression of Calvin cycle genes in salt-stressed cucumber seedlings J Plant Res 127:763−773
NaClストレスに対するスペルミジン(Spd)の耐塩性改善効果を調べたところ、生長阻害や光合成活性の低下を軽減する効果が見られた。Spdがカルビン回路の鍵酵素の活性を上昇させ,光合成能低下を抑制し、耐塩性を向上させたと考えられる。(p.763-773)
H2O2蓄積とATP活性の変化を介してAV菌根がキュウリの低温耐性を向上させる
Liu A, Chen S, Chang R, Liu D, Chen H, Ahammed GJ, Lin X, He C (2014) Arbuscular mycorrhizae improve low temperature tolerance in cucumber via alterations in H2O2 accumulation and ATPase activity. J Plant Res 127:775−785
AV菌根はキュウリの成長を増加させたが低温は菌根を減少させた。低温下ではNADH oxidase活性が誘導されH2O2が蓄積するが、この活性と蓄積は菌根菌接種により低下した。一方ATPase活性は菌接種で上昇した。NADH oxidaseとATPaseの活性はAV菌根菌による低温耐性機構に関与していると考えられる。(p.775-785)
浸透圧ストレスはオオムギ根のPIPアクアポリン発現を低下させるが、そのプロセスにH2O2は関与しない
Katsuhara M, Tsuji N, Shibasaka M, Panda SK (2014) Osmotic stress decreasesPIP aquaporin transcripts in barley roots but H2O2 is not involved in this process. J Plant Res 127:787−792
塩ストレスによって原形質膜型アクアポリンPIPの発現が低下することがこれまで報告されていた。本研究では、この発現低下が浸透圧ストレスで引き起こされること、またこれまで耐塩性に関与すると思われていたH2O2は浸透圧ストレス誘導性のPIP発現抑制には関与していないことが示された。(p.787-792)
カラシナにおけるCO2と気温の上昇によるC-N代謝の変化:気候変動における適応戦略
Chandra Shekhar Seth, Virendra Misra (2014) Changes in C-N metabolism under elevated CO2 and temperature in Indian mustard (Brassica juncea L.): an adaptation strategy under climate change scenario J Plant Res 127:793−802
カラシナを高CO2および高温で生育させC-N代謝の鍵となる酵素と形態的・生理的特性を調査した結果、炭素および窒素代謝に関わる酵素の活性、生理・生 化学的特性および葉における炭素と窒素の含量が、高CO2>高CO2+高温>通常条件であることが判明し、C-N代謝の向上が気候変動に対する適応に寄与 する可能性が示唆された。(p.793-802)
酵母変異体を用いた機能的cDNAスクリーニングにより乾燥耐性植物Selaginella lepidophyllaから植物と微生物由来のトレハロース合成酵素を同定
Suzana Pampurova, Katrien Verschooten, Nelson Avonce, Patrick Van Dijck (2014) Functional screening of a cDNA library from the desiccation-tolerant plant Selaginella lepidophylla in yeast mutants identifies trehalose biosynthesis genes of plant and microbial origin J Plant Res 127:803−813
微生物で乾燥耐性に関わるトレハロースは通常の植物にはほとんど含まれないが、本種では水分状態にかかわらず高濃度蓄積する。本論文では、トレハロースを 合成できない酵母変異体を用いて本種のcDNAライブラリーを機能にスクリーニングした結果、微生物由来のトレハロース合成酵素遺伝子が多数同定され、高 濃度のトレハロースがエンドファイト由来である可能性が示唆された。(p.803-813)