日本植物学会

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JPR和文要旨バックナンバー

ホーム > Journal of Plant Research > JPR和文要旨バックナンバー > 2015年1月号(Vol.128 No.1)

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2015年1月号(Vol.128 No.1)

JPRの新しい取り組み

Nishida I (2015) New Challenges with the Journal of Plant Research J Plant Res 128: 1−2

JPR 2015年の編集方針について概説した。 (pp. 1−2)

原形質連絡:植物の細胞間コミュニケーションにおけるその機能と多様性

Tomomichi Fujita (2015) Plasmodesmata: function and diversity in plant intercellular communication. J Plant Res:3-5

原形質連絡は、異なる植物群が独立に獲得してきたコミュニケーションツールである。しかしその制御機構や役割、多様性についてはまだ多くのことが謎である。本号のJPR誌上シンポジウムでは、原形質連絡の機能や進化の理解に向けたこれまでの取り組みや最新の研究を論じた6編の記事を特集している。 (pp.3-5)

褐藻の原形質連絡について

Terauchi T, Nagasato C, Motomura T (2015) Plasmodesmata of brown algae. J Plant Res 128:7−15.

原形質連絡は、緑色植物と褐藻に見られる細胞間連絡構造で多細胞の植物の形態形成において重要な役割を担っているものと考えられる。本論文では、褐藻の原形質連絡の微細構造、形成過程の詳細ならびにその分布と体制との関係について、近年の知見を踏まえ議論する。(pp. 7−15)

細胞間シグナル因子の動態から、植物の器官形成の仕組みをひも解く

Kawade K, Tanimoto H (2015) Mobility of signaling molecules: The key to deciphering plant organogenesis. J Plant Res 128:17-25

正常な器官形成には、原形質連絡を介した細胞間シグナル因子の移動が欠かせない。しかし、その動態は未だによく分かっていないのが現状である。本総説は、この過程の、特に定量的な側面に焦点を当てて議論し、植物の器官形成の仕組みのより深い理解を目指している。(pp.17-25)

篩管中を移行するmRNAの同定

Michitaka Notaguchi 2015 Identification of Phloem-Mobile mRNA J Plant Res:27-35

植物の全身的な長距離シグナル伝達には、篩管を介した情報分子の輸送が寄与することが知られている。本論文では、輸送自体は検出されるものの、生理的な働きが未だ明らかにされていないmRNAについて、これまでの知見をまとめるとともに今後アプローチされたい課題を議論する。(pp. 27−35)

原形質連絡を介したウイルスの細胞間移動

Dhinesh Kumar, Ritesh Kumar, Tae Kyung Hyun, Jae-Yean Kim (2015) Cell-to-cell movement of viruses via plasmodesmata. J Plant Res 128:37-47

植物ウイルスは宿主細胞に感染し、原形質連絡を利用し細胞から細胞に広がっていく。本論文では、さまざまなウイルスがどのようなしくみで植物自身の細胞間情報伝達手段を乗っ取り、感染を拡大するのかについて、最新の知見を簡潔にまとめたものである。(pp. 37-47)

同化産物の移動を、原形質連絡を介した水の流れも考慮して考える

Schulz A (2015) Diffusion or bulk flow: how plasmodesmata facilitate pre-phloem transport of assimilates. J Plant Res 128:49-61

同化産物が、葉肉細胞から師部の細胞へ移動するときの駆動力として、その濃度差と全体的な水の流れが考えられる。本総説では、植物種による違いを意識しつつ、実験および理論的な研究で得られた知見をまとめて、これらの駆動力がどのように寄与しているのかを考察している。pp. 49-61

コケ植物の原糸体および葉を用いた原形質連絡を介する細胞間情報伝達の解析

Munenori Kitagawa and Tomomichi Fujita (2015) A model system for analyzing intercellular communication through plasmodesmata using moss protonemata and leaves. J Plant Res 128:63-72

原形質連絡は植物の細胞間情報伝達経路の一つであり、これを介する情報伝達は植物の発生や環境応答に必須である。本論文では、原形質連絡を介する分子の輸送の可視化系について論じ、この系を利用した原形質連絡の制御メカニズムの解明に向けてその展望を考察した。(pp. 63-72

ファンフェルナンデス諸島(チリ)固有種Drimys confertifoliaの移住経路と向上進化

López-Sepúlveda P, Takayama K, Greimler J, Crawford DJ, Peñailillo P, Baeza M, Ruiz E, Kohl G, Tremetsberger K, Gatica A, Letelier L, Novoa P, Novak J, Stuessy TF (2015) Progressive migration and anagenesis in Drimys confertifolia of the Juan Fernandez Archipelago, Chile. J Plant Res 128:73−90

ファンフェルナンデス諸島固有種のDrimys confertifoliaと大陸産近縁種の遺伝解析を行い、本諸島固有種が高い遺伝的多様性を保持していることを明らかにした。島への移住は、大陸から近く古い島に最初に起こり、続いて大陸から遠く新しい島に起こったと示唆された。(pp.7390)

核マイクロサテライトおよびミトコンドリアDNAの塩基配列から明らかになった、北日本およびその周辺地域におけるアカエゾマツ(Picea glehnii)の遺伝構造

Aizawa M, Yoshimaru H, Takahashi M, Kawahara T, Sugita H, Saito H, Sabirov RN (2015) Genetic structure of Sakhalin spruce (Picea glehnii) in northern Japan and adjacent regions revealed by nuclear microsatellites and mitochondrial gene sequences. J Plant Res 128: 91−102.

北海道に広く分布し、その周辺地域に隔離分布するアカエゾマツの遺伝構造を調べた。早池峰山集団の遺伝的多様性は顕著に低く、他集団から明確に分化していた。また、同属のエゾマツを含めた解析から、サハリン南部集団では、エゾマツからの遺伝子浸透が起きている可能性が示唆された。(pp. 91102)

原形質膜内在性タンパクの塩ストレスおよび脱水ストレス応答

Wang X, Cai H, Li Y, Zhu Y, Ji W, Bai X, Zhu D, Sun X (2015) Ectopic overexpression of a novel Glycine soja stress-induced plasma membrane intrinsic protein increases sensitivity to salt and dehydration in transgenic Arabidopsis thaliana plants. J Plant Res 128:103−113

原形質膜内在性タンパク質(PIPs)はアクアポリンファミリーに属し、水の輸送に関与している事が知られている。本研究では、ツタマメの原形質膜内在性タンパク遺伝子GsPIP2;1のストレス応答性と機能について調べた。塩および脱水に対して発現誘導性があることから、植物の水ストレス耐性能に関与していることが示唆される。(pp. 103−113)

混合栄養性ならびに菌従属栄養性のシュンラン属における自動自家受粉

Suetsugu K (2015) Autonomous self-pollination and insect visitors in partially and fully mycoheterotrophic species of Cymbidium (Orchidaceae). J Plant Res 128: 115-125.

菌への依存性が異なるラン科シュンラン属の受粉様式を、先行研究を含め比較した。その結果、シュンラン属は、菌への依存度を高め暗い林床に進出する過程で、繁殖の保障として自動自家受粉を進化させた可能性が高いことが明らかになった。 (pp. 115-125)

アーバスキュラー菌根菌との共生が河川特異的な植物の分布に与える影響

Nobis A, Blaszkowski J, Zubek S (2015) Arbuscular mycorrhizal fungi associations of vascular plants confined to river valleys: towards understanding the river corridor plant distribution. J Plant Res 128:127-137

中央ヨーロッパにおいて,河川環境を好む維管束植物のうち菌根菌と共生しないものが少数であるのに対し,共生する共生菌の種数は少ない.河川特異的な植物は共生菌の存在によって河川環境に適応しているが,河川域外では他の菌共生をもつ植物との競争に負けるので,分布が制限されるとみられる.(pp. 127-137)

団結の力:自家不和合性を示す異形花柱花を持つMelochia属の種群(アオイ科)では,異形花間の空間的親和性により適応度が増加する

Faife-Cabrera M, Navarro L, Ferrero V (2015) Strength through unity: spatial affinity between morphs improves fitness in incompatible heterostylous Melochia (Malvaceae) species. J Plant Res 128:139−146

異形花柱性を示すMelochia属(アオイ科)数種における異形花の空間的分布を調べた結果,ほぼ全ての種で,異なる型どうしが隣接して分布する傾向が認められた。本属では,このような空間分布を実現することで,繁殖の成功率を高めているのだろう。(pp. 139−146)

バイオ肥料微生物と植物の生物相関よる福島の放射性 Cs 汚染土壌からの Cs 除去加速化の検討

Salem Djedidi, Akimi Terasaki, Han Phyo Aung, Katsuhiro Kojima,, Hiroko Yamaya, Naoko Ohkama‑Ohtsu, Sonoko Dorothea Bellingrath‑Kimura, Phatchayaphon Meunchang, Tadashi Yokoyama (2015) Evaluation of the possibility to use the plant-microbe interaction to stimulate radioactive 137Cs accumulation by plants in a contaminated farm field in Fukushima, Japan J Plant Res 128: 147-159

137Cs除去における植物―微生物相互作用の有効性を調査した。Bacillus属細菌を接種したコマツナ 品種「日光」の 137Cs吸収量が最も多く、微生物接種により植物の吸収する137Cs量に増加はみられたが、増加量がそれほど高くないため、本試験の供試植物による土壌中の137Cs除去は困難であると考えられる。(pp. 147−159)

ハナイカダ属(モチノキ目ハナイカダ科)の花の形態と発生学:分類学的・進化的意味

Ao C, Tobe H (2015) Floral morphology and embryology of Helwingia (Helwingiaceae, Aquifoliales): systematic and evolutionary implications. J Plant Res 128:161-175

葉上に花序をもつハナイカダ属(東亜に4種)は花の形態や発生は良く知られていない。原始形質の5数性の花を姉妹群フィロノマ科(中米に4種)の花と比較し、ハナイカダ属の花被は花冠ではなく萼であることを証明した。また、科としての独立性、両媒(虫媒・風媒)花への進化を明らかにした。(pp. 161175)

酢酸添加におけるクラミドモナスのペルオキシソーム数とグリオキシソーム候補酵素発現量の増加

Yasuko Hayashi, Nagisa Sato, Akiko Shinozaki , Mariko Watanabe (2015) Increase in peroxisome number and the gene expression of putative glyoxysomal enzymes in Chlamydomonas cells supplemented with acetate J Plant Res 128:177-185

緑藻クラミドモナスのペルオキシソームの機能はまだ不明瞭である。アルコール、ショ糖、酢酸をそれぞれ個別に添加培養した細胞について、ペルオキシソームの挙動やグリオキシル酸回路の候補遺伝子の発現量を比較し、酢酸の代謝にペルオキシソームが関与している可能性を示唆した。(pp. 177185)

シロイヌナズナにおけるクロマチンリモデリング因子の概日リズム性発現プロフィール

Lee HG, Lee K, Jang K, Seo PJ (2015) Circadian expression profiles of chromatin remodeling factor genes in Arabidopsis. J Plant Res 128:187-199

植物の概日リズムにおいて、特定の遺伝子が周期性の発現を示すことがよく知られている。本論文では、クロマチンリモデリング因子をコードする17個の遺伝子が概日リズム性の発現を示すことを明らかにし、概日時計によるリズムの制御にクロマチン修飾などを伴うエピジェネティックな転写調節が重要であることを示唆した。(pp. 187-199)

イネのアレンオキシド合成酵素-1の細胞内局在と界面活性剤依存的オリゴマー化

Sereyvath Yoeun, Jeong-Il Kim, Oksoo Han (2015) Cellular localization and detergent dependent oligomerization of rice allene oxide synthase-1 J Plant Res 128:201-209

ジャスモン酸生合成の鍵酵素であるアレンオキシド合成酵素はイネにおいて葉緑体に局在していた。その触媒効率はポリオキシエチレントリデシルエーテルの臨界ミセル濃度付近で最大になり、界面活性剤の存在量に依存したオリゴマー状態が触媒効率の制御に重要であることが示唆された。(pp. 201-209)

シロイヌナズナの環状ヌクレオチド依存型カチオンチャネル10Naを輸送して耐塩性を負に制御する

Jin Y, Jing W, Zhang Q, Zhang W (2015) Cyclic nucleotide gated channel 10 negatively regulates salt tolerance by mediating Na+ transport in Arabidopsis J Plant Res 128:211−220

環状ヌクレオチド依存型カチオンチャネル(CNGC)の機能はこれまでほとんどわかっていない。本研究ではT-DNA挿入変異系統と過剰発現系統および酵母で発現させた場合の形質の解析から、シロイヌナズナCNGC10Naを輸送していることと、耐塩性を負に制御していることを明らかにした。 (pp.211-220)

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