2017年9月号(Vol.130 No.5)
Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology
Rhizomatosae節4倍体種と近縁の2倍体種(マメ科ラッカセイ属)の進化的関係に関する細胞遺伝学的証拠
Ortiz AM, Robledo G, Seijo G, Valls JFM, Lavia GI (2017)
Cytogenetic evidences on the evolutionary relationships between the tetraploids of the section Rhizomatosae and related diploid species (Arachis, Leguminosae). J Plant Res 130:791-807
Rhizomatosae節に知られる3つの4倍体種の起源には、同節に知られる唯一の2倍体種であるA. burkartiiは関与しておらず、別節であるErectoides節やProcumbentes節に分類される2倍体種が関与していることが、細胞遺伝学的解析から示唆された。(pp. 791-807)
東北日本の上北迫植物化石群(後期白亜紀 コニアシアン期)から発見された2種類の真正双子葉類の花化石
Takahashi M, Herendeen PS, Xiao X (2017)
Two early eudicot fossil flowers from the Kamikitaba assemblage (Coniacian, Late Cretaceous) in northeastern Japan. J Plant Res 130:809-826
上北迫植物化石群(福島県双葉層群)から発見した花化石の内部構造を大型シンクロトロンで解明した結果、ヤマグルマ科の新属新種の化石種であることが明らかになった。もう一つは、ツゲ科の新化石種である。これらの花化石は、後期白亜紀に東部ユーラシアに生育していた真正双子葉類である。(pp. 809-826)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
東部ヒマラヤにおける固有種・非固有種・生育型の種数の標高パターンとその作用要因
Manish K, Pandit MK, Telwala Y, Nautiyal DC, Koh LP, Tiwari S (2017)
Elevational plant species richness patterns and their drivers across non-endemics, endemics and growth forms in the Eastern Himalaya. J Plant Res 130:829-844
種数の標高パターンについては様々な研究結果が出ており、多くの議論がある。本研究では被子植物2781種について、標高300mから5300mまでの種数分布を調べた。全体としては標高に対してこぶ状のパターンとなった。固有種のピークは非固有種よりも高標高にあった。環境要因としては、エネルギー(気温・日射・潜在蒸発散)と水分(土壌水分・降水)の組合せが種数分布に作用していることが明らかとなった。(pp. 829-844)
エンジュの幹からのCO2フラックスの時間的変動と鉛直分布
Han F, Wang X, Zhou H, Li Y, Hu D (2017)
Temporal dynamics and vertical variations in stem CO2 efflux of Styphnolobium japonicum. J Plant Res 130:845-858
エンジュの幹からのCO2放出速度の季節変化は木部組織温度と幹直径成長に対応していることが明らかになった。生育期の日中のCO2放出速度の鉛直勾配は木部組織の温度勾配,直径成長,幹表面積あたりの辺材体積の違いにより生じていた。CO2放出速度の温度反応は幹の部位や測定温度条件により異なった。(pp. 845-858)
Morphology/Anatomy/Structural Biology
窒素肥料は二次細胞壁の合成を変化させることによりジャポニカ米(Oryza sativa)の倒伏抵抗性に影響する
Zhang W, Wu L, Ding Y, Yao X, Wu X, Weng F, Li G, Liu Z, Tang S, Ding C, Wang S (2017)
Nitrogen fertilizer application affects lodging resistance by altering secondary cell wall synthesis in japonica rice (Oryza sativa). J Plant Res 130:859-871
ジャポニカ米2品種に関する観察・測定より、高窒素条件下では、リグニン生合成系の遺伝子の発現が減少し、リグニンが欠乏、厚壁組織などの二次細胞壁への沈着が減り、茎の機械的強度が低下して倒伏抵抗性が下がる結果が得られ、倒伏抵抗性におけるリグニンの重要性が示唆された。(pp. 859-871)
ヨーロッパブドウの穂軸における二次維管束組織の発達に与える摘花,摘葉および植物ホルモンの影響
Gourieroux AM, Holzapfel BP, McCully ME, Scollary GR, Rogiers SY (2017)
Vascular development of the grapevine (Vitis vinifera L.) inflorescence rachis in response to flower number, plant growth regulators and defoliation. J Plant Res 130:873-883
ブドウの穂軸の成長やその二次維管束組織の発達は遺伝的にかつ環境に応じて調節される.この仕組みを明らかにするために,摘花,摘葉や植物ホルモンの影響を調べた結果,穂軸の成長やその二次維管束組織の発達は,摘葉よりも摘花や植物ホルモンの影響を受けることが示唆された。(pp. 873-883)
葉肉細胞におけるミトコンドリアの細胞内配置はイネ科のC3植物とC4植物で異なる
Hatakeyama Y, Ueno O (2017)
Intracellular position of mitochondria in mesophyll cells differs between C3 and C4 grasses. J Plant Res 130:885-892
C3植物では、葉肉細胞のミトコンドリアから光呼吸によって放出されたCO2を再固定することは光合成効率を高める上で重要である。本研究では、イネ科C4種の葉肉細胞ミトコンドリアの配置パターンがC3種と異なることを明らかにし、その生理的意義を光合成・光呼吸代謝機構との関連から論じた。(pp. 885-892)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
ビワの果実の凍結ストレス応答に関するトランスクリプトーム解析
Xu H, Li X, Chen J (2017)
Comparative transcriptome profiling of freezing stress responses in loquat (Eriobotrya japonica) fruitlets. J Plant Res 130:893-907
ビワの果実を凍結ストレスにさらす前と後でトランスクリプトーム解析を行った。凍結ストレスによって2,892個の遺伝子の発現が変化することが明らかとなり、発現レベルが増加する、炭水化物の輸送や代謝、アミノ酸代謝、エネルギー代謝、脂質代謝に関わる遺伝子群が凍結ストレス応答において重要な役割を持つことが示唆された。(pp. 893-907)
窒素代謝に及ぼす光合成機能強化の影響
Otori K, Tanabe N, Maruyama T, Sato S, Yanagisawa S, Tamoi M, Shigeoka S (2017)
Enhanced photosynthetic capacity increases nitrogen metabolism through the coordinated regulation of carbon and nitrogen assimilation in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 130:909-927
遺伝子導入により光合成機能を強化したシロイヌナズナでは、生育初期に炭素代謝の促進によりタンパク質合成が活性化し、遊離アミノ酸が一時的に不足、そのC/Nのアンバランスを感知し、炭素・窒素代謝関連遺伝子発現量が制御され、成熟期にはC/Nバランスが維持されることが示唆された。(pp. 909-927)
環境ストレスおよびアブシジン酸に応答したポプラsucrose nonfermenting1-related protein kinase 2遺伝子の発現パターン
Yu X, Takebayashi A, Demura T, Ohtani M (2017)
Differential expression of poplar sucrose nonfermenting1-related protein kinase 2 genes in response to abiotic stress and abscisic acid. J Plant Res 130:929-940
ポプラPopulus trichocarpaに存在する12個のSucrose nonfermenting1-related protein kinase 2(SnRK2)遺伝子の発現解析の結果、ポプラ環境ストレス応答における、器官特異的なSnRK2遺伝子発現上昇の関与が示唆された。(pp. 929-940)
Technical Note
強度の異なるPhytagel培地へのシロイヌナズナ根の貫入モデル
Yan J, Wang B, Zhou Y (2017)
A root penetration model of Arabidopsis thaliana in phytagel medium with different strength. J Plant Res 130:941-950
Phytagel培地を用いて根に対する力学的抵抗の効果を調べる系を評価した。Phytagelの濃度を変える事で、力学的強度の異なる培地を作る事ができる。ゲル濃度を変えた培地を重ねて、根の伸長を調べると、0.6%のゲルから1.2%のゲルへは貫入しないが中間的な強度の層を挟む事で貫入出来るようになる事を示した。(pp. 941-950)