2018年7月号(Vol.131 No.4)
Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology
中国とその近隣地域におけるヌリトラノオ類(チャセンシダ科)に対する統合的なアプローチによる分類学的研究
Chang Y, Ebihara A, Lu S, Liu H, Schneider H (2018)
Integrated taxonomy of the Asplenium normalecomplex (Aspleniaceae) in China and adjacent areas. J Plant Res 131:573-587
2倍体と4倍体の複数の分類群からなる複合体から成るヌリトラノオ類の分類を再検討するために、染色体・形態・DNAのデータを用いて種を判別した。その結果、遺伝子型と形態に基づき判別できる6種の2倍体種を特定し、分類体系を見直した。(pp. 573-587)
イチヤクソウ属において、菌従属栄養の平行遷移についての比較形態的解析が分岐と収斂特性を明らかにする
Shutoh K, Suetsugu K, Kaneko S, Kurosawa T (2018)
Comparative morphological analysis of two parallel mycoheterotrophic transitions reveals divergent and convergent traits in the genus Pyrola(Pyroleae, Ericaceae). J Plant Res 131:589-597
イチヤクソウ属は完全菌従属栄養(FM)と部分的菌従属栄養(PM)の種を含む。2系統群の標本を用いて形態的特性を比較した結果、どちらの系統でもFM種で葉面積の減少が見られた。一方、系統間で差異もあり、PMからFMへの遷移にともなう分岐と収斂特性が明らかになった。(pp. 589-597)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
インド・西ガーツのタヌキモ属(Utricularia praeteritaとUtricularia babui)の遅延自殖は繁殖保証として働く
Chaudhary A, Yadav SR, TandonR (2018)
Delayed selfing ensures reproductive assurance in Utricularia praeteritaand Utricularia babuiin Western Ghats. J Plant Res 131:599-610
タヌキモは世界中に分布しているが繁殖システムについては詳しく調べられていない。インド・西ガーツの在来種2種の花生物学,繁殖様式,受粉メカニズム,繁殖成功について調べた。両種の花は虫媒花であり,雌雄離熟,雌性先熟,敏感な柱頭など他殖性の特徴をもつ。しかし訪花昆虫がいない場合には自殖によって繁殖することが示された。(pp. 599-610)
伐採林のバイオマス動態における木材密度の役割
Nam VT, Anten NPR, KuijkMv (2018)
Biomass dynamics in a logged forest: the role of wood density.J Plant Res 131:611-621
樹種毎に異なる木材密度が各樹種や個体群レベルでのバイオマス動態にもたらす影響をベトナムで30年周期で伐採されている熱帯林で2004年から2012年にかけて調査した。全種を通じて木材密度は枯死率や胸高直径と負の相関を示し,立木バイオマスと正の相関を示した。立木バイオマスは地上部バイオマスの成長と正の相関があった。これらのことから木材密度の高い樹種は低密度の樹種よりも森林全体のバイオマスに直接的に影響し,またバイオマス増加にも間接的に影響することが示唆された。(pp. 611-621)
異型異熟性を示すタブノキの小集団における歪んだ雄性繁殖成功と花粉流動
Watanabe S, Takakura KI, Kaneko Y, Noma N, Nishida T (2018)
Skewed male reproductive success and pollen transfer in a small fragmented population of the heterodichogamous tree Machilus thunbergii. J Plant Res 131:623-631
タブノキは、1日の性表現が午前♂ → 午後♀の個体と午前♀ → 午後♂の個体で集団が構成される。この二型は通常、頻度が1:1になるが、集団が孤立断片化した場合は、頻度が一方に偏ってしまう。本研究では、そうした集団で二型の花粉流動様式と繁殖成功を比較し、二系頻度の維持機構について考察した。(pp. 623-631)
マリティム・リグーリアアルプス固有の絶滅危惧種Lilium pomponiumの繁殖生物学的研究
Casazza G, Carta A, Giordani P, Guerrina M, Peruzzi L, Minuto L (2018)
Reproductive biology of the threatened Lilium pomponium(Liliaceae), a species endemic to Maritime and Ligurian Alps. J Plant Res 131:633-640
IUCN全球レッドリストに掲載されている5種のLilium属植物の一つであるために欧州で保全上の関心の高いLilium pomponiumの訪花生態と繁殖システムを調べた。最もよく訪花したのはヤマキチョウであった。概して自家受粉による繁殖成功はゼロに近かったが,隣花受粉や自家受粉処理は自家受精より若干効率的だった。本研究はこの種が他殖性であり自殖能がほとんど無いことを示した。(pp. 633-640)
異なる環境に生育する飼料植物の栄養成分の全球比較
Lee MA(2018)
A global comparison of the nutritive values of forage plants grown in contrasting environments. J Plant Res 131:641-654
30ヶ国に生育する136種の植物を対象として1255地点から3774の栄養成分データを文献調査により分析した結果,乾燥地帯や赤道付近の植物は温帯やツンドラ地帯よりも多くの繊維やリグニンを含む一方でタンパク質は少ないなど,栄養価は気温や乾湿などの気候条件の影響を受けていることが示された。(pp. 641-654)
Morphology/Anatomy/Structural Biology
シュウカイドウ属のラメロプラストとミニクロロプラスト:構造色と光合成機能
Pao SH, Tsai PY, Peng CI, Chen PJ, Chi-Chu Tsai CC, Yang EC, Shih MC, Chen J, Yang JY, Chesson P, Sheue CR (2018)
Lamelloplasts and minichloroplasts in Begoniaceae: iridescence and photosynthetic functioning. J Plant Res 131:655-670
シュウカイドウ属の構造色を呈する葉の向軸側表皮細胞には、内部を規則的なチラコイドが占める特徴的な色素体があり、イリドプラストと名付けられているが、これを持ちながら葉が構造色を呈しない種もある。そこで色素体の微細構造を調べたところ、構造色はチラコイド間の距離がある値より小さい場合にのみ呈することがわかった。(pp. 655-670)
新たに展葉したダイズの三小葉の葉面積と光合成は成熟葉に制御される
Wu Y, Gong W, Wang Y, Yong T, Yang F, Liu W, Wu X, Du J, Shu K, Liu J, Liu C, Yang W(2018)
Leaf area and photosynthesis of newly emerged trifoliolate leaves are regulated by mature leaves in soybean. J Plant Res 131:671-680
ダイズの新葉が成熟葉の光環境の影響を受ける可能性を明らかにするために,全天下,遮光下,または成熟葉のみ遮光した条件で栽培したダイズの新葉の葉面積,LMA,解剖学的構造,細胞サイズ・数,ガス交換特性,可溶性糖の量を調べた。その結果,新葉の特徴は成熟葉の光環境の影響を受けることが示唆された。(pp. 671-680)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
黄化エンドウ芽生え上胚軸における非対称なオーキシン極性移動は内皮に局在するPsPIN1によって制御される:免疫組織化学的観点からの解析
Kamada M, Miyamoto K, Oka M, Ueda J, Higashibata A (2018)
Regulation of asymmetric polar auxin transport by PsPIN1 in endodermal tissues of etiolated Pisum sativumepicotyls: focus on immunohistochemical analyses. J Plant Res 131:681-692
黄化エンドウ芽生え上胚軸の子葉側と反子葉側では、不均等なオーキシン極性移動ならびにその蓄積がみられる。今回新たに作製した抗PsPIN1抗体を用いた免疫組織化学的解析から、これらの現象は、フックおよび上胚軸の内皮細胞に非対称に局在するPsPIN1によって制御されていることがわかった。(pp. 681-692)
Oryza longistaminata地下茎の発達にスクロースが与える影響
Bessho-Uehara K, Nugroho JE, Kondo H, Angeles-Shim RB, Ashikari M (2018)
Sucrose affects the developmental transition of rhizomes in Oryza longistaminata. J Plant Res 131:693-707
Oryza longistaminata地下茎の屈曲は節間の偏差成長によるものだが、スクロースにより抑制される。スクロース添加によりGA合成遺伝子やオーキシン輸送体遺伝子の発現が減少することが示され、またGA合成阻害剤によっても地下茎の屈曲が抑制された。このことから、地下茎は親(地上茎)からの栄養供給がある間は地下を伸長し、スクロースが欠乏するとGA合成を上昇させ、地上方向へ成長することが示された。(pp. 693-707)
Technical Note
日本全国にわたるソメイヨシノ花弁表面からの環境DNAの採取と分析
Ohta T, Kawashima T, Shinozaki NO, Dobashi A, Hiraoka S, Hoshino T, Kanno K, Kataoka T, Kawashima S, Matsui M, Nemoto W, Nishijima S, Suganuma N, Suzuki H, Taguchi Y, Takenaka Y, Tanigawa Y, Tsuneyoshi M, Yoshitake K, Sato Y, Yamashita R, Arakawa K, Iwasaki W (2018)
Collaborative environmental DNA sampling from petal surfaces of flowering cherry Cerasus × yedoensis'Somei-yoshino' across the Japanese archipelago. J Plant Res 131:709-717
植物の花弁表面は、環境DNAの調査にとって興味深い対象である。我々は全国のソメイヨシノの花弁表面の環境DNAサンプルを集めることを目的としたクラウドソーシングを実施し、149名の協力者によって577の環境DNAサンプルを得た。サンプルの16Sシーケンスによって、スギを含む様々な植物に由来すると考えられるDNAが検出された。(pp. 709-717)
ユークリッド距離は、浸漬型バイオリアクターを用いたサトウキビ培養において効果的なマンニトールのレベルを識別しうる
Gómez D, Hernández L, Yabor L, Beemster GTS, Tebbe CC, Papenbrock J, Lorenzo JC (2018)
Euclidean distance can identify the mannitol level that produces the most remarkable integral effect on sugarcane micropropagation in temporary immersion bioreactors. J Plant Res 131:719-724
無機的要因実験においてこれまで別々に扱われてきた複数のインジケーターは、処理情報を組み込んだユークリッド距離によって統合できる可能性がある。検証のため、マンニトールの濃度を変えてサトウキビを培養し、組織の増加速度、生重、アルデヒドのレベルなどを測定した。マンニトール濃度の増加に伴うユークリッド距離の増加が確認された。(pp. 719-724)