2019年5月号(Vol.132 No.3)
JPR Symposium
遺伝子制御ネットワークに着目した根毛の成長制御機構
Shibata M, Sugimoto K (2019)
A gene regulatory network for root hair development. J Plant Res 132:301-309
植物は土壌環境に応じて根毛の成長を調節する。本レビューでは、その分子機構として転写因子による遺伝子制御ネットワークに焦点を当て、複数の環境シグナルがどのように伝達・統合され、根毛の成長変化へ至るのかについて紹介する。(pp.301-309)
植物における水の輸送・知覚・応答
Scharwies JD, Dinneny JR (2019)
Water transport, perception, and response in plants. J Plant Res 132:311-324
植物にとって水は必要不可欠な物質である。本レビューではまず、植物が土壌から水を吸収し、大気中へ放出する一連の流れを生物物理的に解説する。次いで植物が体内の水分状態をどのようにして認識しているのか、さらに水分不足に陥った際の応答を局所的な応答と全身性な応答に分けて紹介する。(pp.311-324)
Current Topics in Plant Research
植物における枝分かれ形成の理論モデル
Nakamasu A, Higaki T (2019)
Theoretical models for branch formation in plants. J Plant Res 132:325-333
植物でよく目にする枝分かれは、形態の様々な階層に繰り返し現れる。この変化に富んだ枝分かれに対し、理論的な取り組みが明らかにしてきた事は多い。その中で、形成過程における位置情報と複雑性制御の重要性、内外環境との相互作用や展開される次元の影響、枝分かれモードの違いを取り上げた。(pp.325-333)
Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology
分子系統解析による水生植物ミズオオバコ属の隠蔽種の発見
Ito Y, Tanaka N, Barfod AS, Bogner J, Li J, Yano O, Gale SW (2019)
Molecular phylogenetic species delimitation in the aquatic genus Ottelia(Hydrocharitaceae) reveals cryptic diversity within a widespread species. J Plant Res 132:335-344
水生植物ミズオオバコ属の分子系統解析を行った結果、広域分布種ミズオオバコに隠蔽種が含まれていることや、中国固有種が周辺に分布する別種と同一種であることが明らかとなった。後者に関しては学名の変更を行ったが、前者については解析個体数が少ないために新種記載は保留とした。(pp.335-344)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
湿潤サバンナの草本植生の種多様性と地上部バイオマスの増加に対する放牧と降雨量の操作実験
Okach DO, Ondier JO, Rambold G, Tenhunen J, Huwe B, Jung EY, Otieno DO (2019)
Interaction of livestock grazing and rainfall manipulation enhances herbaceous species diversity and aboveground biomass in a humid savanna. J Plant Res 132:345-358
サバンナの植生に対する放牧と降雨量の変化の相互作用を理解することは草本食性の種多様性とバイオマス生産の予測に重要である。放牧圧のある区画では種多様性は高いがバイオマスは低く,また降雨量の増減によってバイオマスの低下が見られた。放牧を除外すると優占種が繁茂して種多様性が低下することが示唆された。(pp.345-358)
亜熱帯の琉球列島における渓流環境への適応に関連したアカボシタツナミソウ(シソ科)の発芽特性の分化
Yoshimura H, Arakaki S, Hamagawa M, Kitamura Y, Yokota M, Denda T (2019)
Differentiation of germination characteristics in Scutellaria rubropunctata(Lamiaceae) associated with adaptation to rheophytic habitats in the subtropical Ryukyu Islands of Japan. J Plant Res 132:359-368
琉球列島固有種アカボシタツナミソウ(シソ科)の陸型個体と渓流型個体の発芽特性を比較した。陸型の発芽が高温下で著しく抑制されたのに対し、渓流型は温度に関係なく短期間で一斉に発芽した。渓流型の発芽特性は、頻繁に増水する渓流帯で定着を確実にするための適応的形質と考えられる。(pp.359-368)
大気湿度と樹冠内配置に対するシラカンバの葉の形態および通導特性の調節
Sellin A, Taneda H, Alber M (2019)
Leaf structural and hydraulic adjustment with respect to air humidity and canopy position in silver birch (Betula pendula). J Plant Res 132:369-381
欧州の温帯域の北方では気候変動によって気温と降水量の増加が予測されており,これは植生を通じた水循環と植物の構造・機能に影響を及ぼし得る。本研究では大気湿度の変化がシラカンバの葉の維管束システムと通導コンダクタンスにもたらす影響を実験的に調査した。大気湿度の増加による葉の通導コンダクタンスの低下が主に導管径の低下によって生じ,一方で維管束サイズ,導管の数,葉脈密度の鉛直勾配が樹冠上部の高い通導性をもたらしていることが明らかになった。(pp.369-381)
都市環境における熱帯性着生ランの発芽ニッチと種子の永続性
Izuddin M, Yam TW, Webb EL (2019)
Germination niches and seed persistence of tropical epiphytic orchids in an urban landscape. J Plant Res 132:383-394
都市の植栽樹木は、在来着生ランの生育地となりうる。本研究は、樹木上のラン菌根菌相、熱帯性着生ランの種子発芽に適した生物物理環境、種子の寿命を調査した。研究では、着生ランからの菌根菌の検出に成功し、樹上に腐植の存在が菌根菌相に重要であること、種子の発芽に温度が影響することが明らかになった。また、Grammatophyllum speciosumは長寿命の種子を作る可能性が示唆された。(pp.383-394)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
高温ストレスと低温ストレスは核小体の形態変化を誘導する
Hayashi K, Matsunaga S (2019)
Heat and chilling stress induce nucleolus morphological changes. J Plant Res 132:395-403
環境ストレス応答センサーとして注目されている核小体の形態変化をイメージング解析した。ウリジンアナログであるethynyl uridine(EU)を用いた新規合成rRNAの可視化・全rRNAの染色、微分干渉顕微鏡による形態観察により、高温および低温ストレスを与えると、核小体中心部に構造体が形成されることを明らかにした。(pp.395-403)
サトウキビ糖タンパク質による黒穂病菌冬胞子のポリアミン増加は、植物の防御機構である
Sánchez-Elordi E, Morales de los Ríos L, Vicente C, Legaz M-E (2019)
Polyamines levels increase in smut teliospores after contact with sugarcane glycoproteins as a plant defensive mechanism. J Plant Res 132:405-417
抵抗性が異なるサトウキビ系統では、感染で異なるポリアミン分子種が増加する。黒穂病菌冬胞子の発芽、核や細胞壁の形態、単離チューブリンの重合に対するポリアミン分子種の効果、サトウキビの感染誘導性糖タンパク質が冬胞子のポリアミン含量に与える効果から、防御応答におけるポリアミンの役割を説明する。(pp.405-417)
Dendrobium officinaleにおいてジャスモン酸メチルによって誘導されるアルカロイド蓄積の制御機構の解明を目指したトランスクリプトーム解析
Chen Y, Wang Y, Lyu P, Chen L, Shen C, Sun C (2019)
Comparative transcriptomic analysis reveal the regulation mechanism underlying MeJA-induced accumulation of alkaloids in Dendrobium officinale. J Plant Res 132:419-429
ラン科セッコク属の植物であるDendrobium officinaleをジャスモン酸メチルで処理するとアルカロイドの蓄積が起こる。本研究では、この植物をジャスモン酸メチルで処理する前と後でトランスクリプトーム解析を行い、セスキテルペンアルカロイドの合成に関わっている遺伝子の発現が、ジャスモン酸メチル処理によって増加することを明らかにした。(pp.419-429)
無走査型吸収分光イメージング法A(x, y, λ)による生きたユーグレナグラシリス細胞内のヘマトクロム様顆粒と眼点の吸収スペクトル測定
Yamashita K, Yagi T, Isono T, Nishiyama Y, Hashimoto M, Yamada K, Suzuki K, Tokunaga E (2019)
Absorbance spectra of the hematochrome-like granules and eyespot of Euglena gracilisby scan-free absorbance spectral imaging A(x, y, λ) within the live cells. J Plant Res 132:431-438
E. gracilisは、外観と吸収スペクトルの一部が眼点に似たヘマトクロム様顆粒を有し、その区別が困難である。本研究では約1×1μm2の空間分解能で、眼点及び未報告のヘマトクロム様顆粒の吸収スペクトルを明らかにし、主成分分析によってこれらを統計的に区別できることを示した。(pp.431-438)
オリーブの細菌感染抵抗性に関わる防御因子
Novelli S, Gismondi A, Di Marco G, Canuti L, Nanni V, Canini A (2019)
Plant defense factors involved in Olea europaearesistance against Xylella fastidiosainfection. J Plant Res 132:439-455
オリーブの急速衰弱症候群への抵抗性の機構を調べるため、抵抗性の異なる品種間比較を行った。抵抗性の品種では、感染による活性酸素のより高い蓄積が見られ、NADPH酸化酵素などの防御関連遺伝子の発現上昇や、特異的な抗酸化あるいは抗微生物分子の生産が見られた。高濃度の活性酸素が防御応答のシグナル伝達の引き金を引くことにより抵抗性を示すと考えられる。(pp.439-455)