2020年7月号(Vol.133 No.4)
JPR Symposium
シロイヌナズナにおける核膜孔を介した遺伝子発現制御
Tamura K (2020)
Nuclear pore complex-mediated gene expression in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 133:449-455
核膜孔は核膜上の単なる"あな(孔)"ではない。最近の研究から、核膜孔は特定のクロマチン部位に相互作用して遺伝子発現を厳密に調節することが分かってきた。植物と他生物のシステムを比較しながら、核膜孔による新しい遺伝子発現調節機構について解説する。(pp. 449-455)
核ラミナタンパク質CRWNはクロマチン構造、遺伝子発現、核内構造体の形成を制御する
Sakamoto Y (2020)
Nuclear lamina CRWN proteins regulate chromatin organization, gene expression, and nuclear body formation in plants. J Plant Res 133:457-462
シロイヌナズナ核ラミナタンパク質CRWNは、核膜内膜直下に局在し核の形態を制御する構造タンパク質である。本総説では、CRWNがクロマチン構造制御、遺伝子発現制御、核内構造体形成といった様々な核内イベントをどのように制御しているか解説する。(pp. 457-462)
熱ストレスにより核小体の再構成が起こる一方で核小体と相互作用するクロマチン領域は維持される
Picart-Picolo A, Picart C, Picault N, Pontvianne F (2020)
Nucleolus-associated chromatin domains are maintained under heat stress, despite nucleolar reorganization in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 133:463-470
核小体はリボソーム合成に加えて、クロマチンとの相互作用を通じてゲノム構成にも寄与する。熱ストレス下のシロイヌナズナの解析により、熱ストレスはリボソーム合成能を低下させるがクロマチンとの相互作用には影響しないことを明らかにし、2つの核小体機能は独立していることが示唆された。(pp. 463-470)
植物のセントロメアおよびテロメアの配置制御のメカニズムとその意義
Oko Y, Ito N, Sakamoto T (2020)
The mechanisms and significance of the positional control of centromeres and telomeres in plants. J Plant Res 133:471-478
真核生物に普遍的なヘテロクロマチンドメインであるセントロメアとテロメアの間期核における空間配置制御は、様々な核内イベントにおいて重要な役割を果たす。本レビューでは、植物のセントロメアとテロメアの配置制御のメカニズムを紹介し、それらの配置の生物学的意義について議論する。(pp. 471-478)
シロイヌナズナの3D核組織
Pontvianne F, Grob S (2020)
Three-dimensional nuclear organization in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 133:479-488
近年、解析技術の進歩により植物の3D核組織の研究が進み、その特徴には植物と動物で明確な違いはないことが示されている。一方で、種々の染色体3D構造の持つ機能については、動物との違いも見えてきている。本レビューでは、主にシロイヌナズナの3D核組織に関する最新の知見を紹介する。(pp. 479-488)
Current Topics in Plant Research
非特異的ホスホリパーゼC:植物の成長と発生に関わる新規ホスホリパーゼC酵素群
Nakamura Y, Ngo AH (2020)
Non-specific phospholipase C (NPC): an emerging class of phospholipase C in plant growth and development. J Plant Res 133:489-497
非特異的ホスホリパーゼCは元来バクテリアにのみ存在が知られ、非特異的に膜リン脂質を分解することから毒素として知られる酵素であったが、真核生物でも高等植物にのみ同様の酵素群が存在し、植物の成長制御やストレス応答で重要な機能を果たすことが近年明らかになってきた。(pp. 489-497)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
形態的にスズメガ媒に適応したサギソウ(ラン科)におけるアザミウマの種子生産への寄与
Shigeta K, Suetsugu K (2020)
Contribution of thrips to seed production in Habenaria radiata, an orchid morphologically adapted to hawkmoths. J Plant Res 133:499-506 (Correction: J Plant Res 133:507-508)
長い距などの形態的な特徴から、鱗翅目昆虫が送粉者であると推定されるサギソウについて、送粉生態学的な調査を行った。その結果、予測通り、スズメガが主要な送粉者であることが明らかになった一方で、副次的にアザミウマも結実に寄与していることが分かった。(pp. 499-506)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
タバコ属の種間雑種で合成されるアシル糖のアシル組成の遺伝様式
Mihaylova-Kroumova AB, Artiouchine I, Korenkov VD, Wagner GJ (2020)
Patterns of inheritance of acylsugar acyl groups in selected interspecific hybrids of genus Nicotiana. J Plant Res 133:509-523
いくつかのタバコ属の植物種およびそれらを交配させた種間雑種について、葉のトライコームからの浸出液に含まれるアシル糖のアシル基がGC-MSを用いて分析された。その結果、アシル糖のアシル組成に対する種間交配の影響やアシル組成の遺伝様式が明らかとなった。(pp. 509-523)
イネ属植物における葉緑体光定位運動
Kihara M, Ushijima T, Yamagata Y, Tsuruda Y, Higa T, Abiko T, Kubo T, Wada M, Suetsugu N, Gotoh E (2020)
Light-induced chloroplast movements in Oryza species. J Plant Res 133:525-535
葉緑体光定位運動は、植物が最適な光合成を営むために重要な反応ある。本研究では、様々な光環境に適応したイネ属植物を用いることで、これまで明確な葉緑体光定位運動が観察されていなかったイネ属植物においても青色光依存的な葉緑体光定位運動が存在することを示した。(pp. 525-535)
AP2/ERF転写因子はヒメツリガネゴケにおいて塩ストレス下で葉緑体分裂を促進する
Do TH, Pongthai P, Ariyarathne M, Teh O-K, Fujita T (2020)
高塩濃度に耐える塩生植物は塩ストレス下で積極的に葉緑体を増やし、光合成の低下を防いでいると言われている。しかしそのしくみは不明であった。本研究ではコケ植物でも塩ストレス下で葉緑体数を増やすことを見出し、そしてその分裂誘導に陸上植物に共通するAP2/ERF転写因子が重要であることを見出した。(pp. 537-548)
コムギ2品種の水分量, 成長, 抗酸化代謝系に対する塩ストレスとサリチル酸の作用
コムギ2品種(Sakha-69とGemaza-1)の塩耐性は乾燥耐性と関係があり、サリチル酸(SA)前処理によって促進された。SAは塩処理によるNa・プロリン・カタラーゼ活性の増加を全て抑制した。他の分析結果も考察し、根での塩分調節と全身における乾燥/脱水耐性の両機構にSAが関与していると結論した。(pp. 549-570)
宇宙の微小重力条件でのシロイヌナズナの成長と繁殖
Karahara I, Suto T, Yamaguchi T, Yashiro U, Tamaoki D, Okamoto E, Yano S, Tanigaki F, Shimazu T, Kasahara H, Kasahara H, Yamada M, Hoson T, Soga K, Kamisaka S (2020)
Vegetative and reproductive growth of Arabidopsis under microgravity conditions in space. J Plant Res 133:571-585
国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」においてシロイヌナズナは生活環を全うし種子をつくることができた。また軌道上の1×g 対照区と比較することで、微小重力条件下では花序柄の成長が促進し、個体あたりの花数が増加することなどが明らかとなった。(pp. 571-585)
ウキクサ(Landoltia punctata)のデンプン合成は培養液にNi2+を添加することで促進する
Shao J, Liu Z, Ding Y, Wang J, Li X, Yang Y (2020)
Biosynthesis of the starch is improved by the supplement of nickel (Ni2+) in duckweed (Landoltia punctata). J Plant Res 133:587-596
水面に浮かんで生育しているウキクサの一種であるLandoltia punctataの培養液にNi2+を添加するとデンプンの合成が促進すること、また、その促進はデンプンの合成に関わっている遺伝子の発現が増加することによって生じることが明らかとなった。(pp. 587-596)