2022年1月号(Vol.135 No.1)
Current Topics in Plant Research
シロイヌナズナのASYMMETRIC LEAVES2 (AS2):植物の形づくりと細胞分裂及び病徴発現における役割
Machida Y, Suzuki T, Sasabe M, Iwakawa H, Kojima S, Machida C (2022)
Arabidopsis ASYMMETRIC LEAVES2 (AS2): roles in plant morphogenesis, cell division, and pathogenesis. J Plant Res 135:3-14
AS2 は、葉が非対称になる変異の原因遺伝子であり、20年前に我々により単離され、分子構造がわかった。AS2 は葉形態を制御する遺伝子の発現に関わっているが、単純な転写因子ではない。それは、42個のメンバーからなる AS2/LOB ファミリーの一つであり、多くの新奇な特性を示す。本総説ではこれらの知見を紹介する。(pp. 3-14)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
シロザにおけるC3-C4中間光合成特性の発現に及ぼす生育温度と窒素栄養の影響
Oono J, Hatakeyama Y, Yabiku T, Ueno O (2022)
Effects of growth temperature and nitrogen nutrition on expression of C3-C4 intermediate traits in Chenopodium album. J Plant Res 135:15-27
シロザはC3植物からC4植物への進化の初期段階に位置付けられるproto-Kranz 型と呼ばれる植物である。本植物が高温あるいは低窒素土壌条件で生育すると、光呼吸酵素(GDC)の細胞間発現パターンを調節してCO2補償点(光呼吸)を低下させることを見出した。(pp. 15-27)
繁殖干渉における花粉―雌しべ間相互作用をタンポポの個体群間・個体間で比較する
Hashimoto K, Yamamoto A, Kanaoka MM, Naiki A, Takakura K-I, Nishida S (2022)
Comparisons among populations and individuals to evaluate pollen-pistil interaction as a mechanism of reproductive interference in Taraxacum. J Plant Res 135:29-40
繁殖干渉の仕組みを解明するため、他種からの繁殖干渉の受け方が異なる在来タンポポ個体群および個体について授粉実験を行った。その結果、干渉を強く受ける個体・個体群は他種花粉を間違って受け入れる可能性が示された。しかし結果は一元的ではなく、違う要因が関与している可能性も残った。(pp. 29-40)
中国の草地種6種における地上部と地下部へのバイオマス分配及び植物密度によるその調整
Sun Y, Wang Y, Yan Z, He L, Ma S, Feng Y, Su H, Chen G, Feng Y, Ji C, Shen H, Fang J (2022)
Above- and belowground biomass allocation and its regulation by plant density in six common grassland species in China. J Plant Res 135:41-53
温帯地方に普通に分布する機能タイプの異なる草地種について、地上部と地下部へのバイオマス分配とそれに対する植物密度の影響を、温室実験で調べた。一年生草本は多年生草本に比べて根/シュート比が低いなど、機能タイプによって分配比は異なっていた。また、植物密度も分配比に有意に影響した。(pp. 41-53)
中央アジアの温帯砂漠に分布するエフェメラル植物における葉・根・土壌の窒素およびリン含量の化学量論的解析
Tao Y, Qiu D, Gong Y-M, Liu H-L, Zhang J, Yin B-F, Lu H-Y, Zhou X-B, Zhang Y-M (2022)
Leaf-root-soil N:P stoichiometry of ephemeral plants in a temperate desert in Central Asia. J Plant Res 135:55-67
砂漠の一年生草本が、雨の降る短い期間に急速に成長し種子を残して生活環を閉じるメカニズムについては不明な点が多い。筆者らは、8種の砂漠の一年生草本で土壌の栄養条件に関係なく葉の窒素とリン濃度を高く保つことを見出した。この性質は砂漠の一年生草本の高い成長速度に寄与していると考えられる。(pp. 55-67)
北日本の冷温帯の老齢林における26年間(1993年-2019年)の地上部バイオマスの増加
Noguchi M, Hoshizaki K, Matsushita M, Sugiura D, Yagihashi T, Saitoh T, Itabashi T, Kazuhide O, Shibata M, Hoshino D, Masaki T, Osumi K, Takahashi K, Suzuki W (2022)
Aboveground biomass increments over 26 years (1993-2019) in an old-growth cool-temperate forest in northern Japan. J Plant Res 135:69-79
落葉広葉樹の老齢林において、長期試験地の繰り返し測定の結果から、地上部バイオマス(AGB)の26年間の変化を明らかにした。AGBは観測期間全体を通して継続的に増加していた。また、測定期間ごとのAGB成長量には夏季および秋季の気温が影響していることが示された。(pp. 69-79)
Genetics/Developmental Biology
ジャガイモゲノムのLTR型レトロトランスポゾン活性化に対する雑種形成と倍数体化の影響
Gantuz M, Morales A, Bertoldi MV, Ibañez VN, Duarte PF, Marfil CF, Masuelli RW (2022)
Hybridization and polyploidization effects on LTR-retrotransposon activation in potato genome. J Plant Res 135:81-92
雑種形成と倍数体化は植物進化の主要な推進力である。本研究では、ジャガイモの2倍体種と異質4倍体種におけるLTR型レトロトランスポゾンの転移と増殖をS-SAP法とqPCR法により評価した。その結果、雑種形成により特定のレトロトランスポゾンが活性化されることが示された。(pp. 81-92)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
染色体倍加したペパーミント(Mentha piperita)における塩ストレス下の形態学的、生理学的、生化学的、遺伝学的影響と精油合成
Zhao Z, Wei Y, Ling Li, Liu B, Yang K, Yang H, Li J (2022)
Chromosome doubling influences the morphological, physiological, biochemical and genetic traits related to essential oil biosynthesis of peppermint (Mentha piperita) under salinity stress. J Plant Res 135:93-104
染色体が倍加したペパーミント(Mentha piperita)のD1株では、塩ストレス下で抗酸化能力が増大し、生存率や光合成能力が著しく向上した。さらに、精油(エッセンシャルオイル)合成関連遺伝子の発現も影響を受け、精油の収量や質も向上した。(pp. 93-104)
乾燥ストレスがトウモロコシの根の形態・構造に与える影響の根の種類と部位による違い
Hazman MY, Kabil FF (2022)
Maize root responses to drought stress depend on root class and axial position. J Plant Res 135:105-120
トウモロコシの4品種を対象とし、乾燥ストレス時の根の内外の構造変化を明らかにした。2品種において、乾燥時に主根の先端で側根の発達が促進され、不定根の基部で中心柱のリグニン沈着量が増加していた。それぞれ水分吸収の補助、水輸送能力の保持と関連していると考えられる。(pp. 105-120)
イラン小麦在来種2種における塩ストレスに応答したRAV転写因子の制御機能
Karami M, Fatahi N, Lohrasebi T, Razavi K (2022)
RAV transcription factor regulatory function in response to salt stress in two Iranian wheat landraces. J Plant Res 135:121-136
コムギゲノムワイド解析からRAV転写因子26個を同定し、さらにイラン塩耐性在来種2種におけるTaRAV4とTaRAV5の詳細解析から、これらは耐塩性指標と相関して発現しており、PK4やPP2C、MYBなどの重要因子とタンパク質間相互作用することが明らかになった。(pp. 121-136)
ゼニゴケcAMP合成・分解酵素CAPEのcAMPホスホジエステラーゼ(PDE)活性の解析
Hayashida Y, Yamamoto C, Takahashi F, Shibata A, Kasahara M (2022)
Characterization of the cAMP phosphodiesterase domain in plant adenylyl cyclase/cAMP phosphodiesterase CAPE from the liverwort Marchantia polymorpha. J Plant Res 135:137-144
CAPEはストレプト植物の中で運動性精子を発達させる分類群が保持するcAMP合成・分解酵素である。本研究では、ゼニゴケCAPEのホスホジエステラーゼ(PDE)部位のタンパク質発現法を確立した。PDEはCa2+存在下で高いcAMP分解活性を示し、Ca2+がcAMPシグナル伝達に関わる可能性が示唆された。(pp. 137-144)