2021年3月号(Vol.134 No.2)
Current Topics in Plant Research
プログラム細胞死における細胞酸化ストレス:葉緑体1O2とミトコンドリアのチトクロムC放出の観点から
Matilla AJ (2021)
Cellular oxidative stress in programmed cell death: focusing on chloroplastic 1O2 and mitochondrial cytochrome-c release. J Plant Res 134:179-194
プログラム細胞死は活性酸素種による酸化ストレス下で起こる細胞応答である。本論文では、葉緑体レトログレードシグナルにおける1O2の役割、およびミトコンドリアからのチトクロムC放出によるプログラム細胞死促進効果について概説し、植物の酸化ストレス応答について考察する。(pp. 179-194)
Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology
ゲジゲジシダ(ヒメシダ科)三倍体雑種から生じる倍数体子孫
Nakato N, Masuyama S (2021)
Polyploid progeny from triploid hybrids of Phegopteris decursivepinnata (Thelypteridaceae). J Plant Res 134:195-208
ゲジゲジシダ三倍体にまれに生じる非減数性胞子由来の配偶体を受精させ、生じた胞子体の染色体数を調べた。また、三倍体と二倍体の交雑実験も行った。生じた胞子体は多数の異数体を含む三~六倍体で、四、六倍体には稔性があり、三倍体雑種をもとに新しい染色体構成の倍数体子孫が生じることが示された。(pp. 195-208)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
ギャップモザイク構造の顕著なブナ成熟林におけるササ群落の総一次生産量
Cai Y, Tanioka Y, Kitagawa T, Ida H, Hirota M (2021)
Gross primary production of dwarf bamboo, Sasa senanensis, in a mature beech forest with a substantial gap-mosaic structure. J Plant Res 134:209-221
ブナ成熟林のササ群落の総一次生産量をチャンバー法で計測し、それらがギャップ区と林冠閉鎖区で大きく異なることを明らかにした。また、両区でササ群落の総一次生産量に影響する要因が異なること、ササ群落の総一次生産推定に際して林冠構造を考慮する重要性を示した。(pp. 209-221)
栽培化とその後の進化によってダイズの葉の短期間の生産力と長期的な維持に関する形質の両方が向上した
Togashi A, Oikawa S (2021)
Leaf productivity and persistence have been improved during soybean (Glycine max) domestication and evolution. J Plant Res 134:223-233
ダイズは、野生種のツルマメから栽培化され、ヒトの管理下で進化してきた。この過程で、葉の窒素濃度や光合成能力が増加した。資源を巡るトレードオフのために、こうした変化は葉の長期間の維持に関する形質を劣化させると予測した。予測に反し、葉の寿命や容積密度もまた増加していた。(pp. 223-233)
湛水ストレス下における2種類のトウモロコシ雑種の抗酸化防御システムの調節
Lukić N, Trifković T, Kojić D, Kukavica B (2021)
Modulations of the antioxidants defence system in two maize hybrids during flooding stress. J Plant Res 134:237-248
気候変動が激しい近年、湛水ストレスは植物にとって主要なストレス要因の一つです。本論文では、2つのトウモロコシ雑種の葉の酸化および抗酸化パラメーターに対する湛水ストレスの影響を比較し、より強力な抗酸化代謝が湛水ストレス下で不可欠であることを示しました。(pp. 237-248)
Genetics/Developmental Biology
温室とフィールドにおけるジャガイモの成長、収量、塊茎の化学成分に対するStDREB1過剰発現の影響
Chiab N, Kammoun M, Charfeddine S, Bouaziz D, Gouider M, Gargouri-Bouzid R (2021)
Impact of the overexpression of the StDREB1 transcription factor on growth parameters, yields, and chemical composition of tubers from greenhouse and field grown potato plants. J Plant Res 134:249-259
様々な植物種において、転写因子DREB遺伝子を過剰発現するとストレス耐性が付与される一方で、形態や収量に悪影響を及ぼすことが知られている。本研究では、ジャガイモでA-4グループに属するStDREB1を過剰発現したところ、成長は抑制されず、塊茎の収量と品質が増加し、今後の育種へ応用可能性が示唆された。(pp. 249-259)
塩ストレス下のシロイヌナズナにおけるMYB3Rを介した積極的な細胞周期と成長の抑制
Okumura T, Nomoto Y, Kobayashi K, Suzuki T, Takatsuka H, Ito M (2021)
MYB3R-mediated active repression of cell cycle and growth under salt stress in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 134:261-277
植物はストレスに曝されたとき、積極的に成長を抑制すると考えられているが、そのメカニズムは明らかではない。G2/M期制御に重要な転写因子MYB3Rの欠損株の研究から、塩ストレス下ではMYB3Rの機能を通じた細胞周期の抑制と、それによる成長抑制が起きることが明らかになった。(pp. 261-277)
SAP130とCSN1は結合してシロイヌナズナの雄性配偶体形成を制御する
Aki SS, Yura K, Aoyama T, Tsuge T (2021)
SAP130 and CSN1 interact and regulate male gametogenesis in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 134:279-289
スプライシング制御因子SAP130は、光形態形成制御因子CSN1と結合する。csn1の部分相補変異体を用い、CSN1とSAP130が共に花粉形成に重要であることを示した。また結合には、CSN1のN末端100残基がCSNからのびだし、SAP130に結合するモデルを提唱した。(pp. 279-289)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
北海道大学植物園に生育する植物819種の葉イオノーム変動
Watanabe T, Azuma T (2021)
Ionomic variation in leaves of 819 plant species growing in the botanical garden of Hokkaido University, Japan. J Plant Res 134:291-304
イオノームとは生物に含まれる元素(イオン)の集合体を意味する。本研究では、北大植物園の植物819種(175科)の葉に含まれる23元素を測定した。その結果、草本/木本、落葉/常緑、一年草/多年草といった生活型の違いと進化系統による違いの双方によりイオノームが変動することを見出した。(pp. 291-304)
ラッカセイの根粒共生へのジャスモン酸制御因子JAZ/TIFYタンパク質の関与
Sen S, DasGupta M (2021)
Involvement of Arachis hypogaea Jasmonate ZIM domain/TIFY proteins in root nodule symbiosis. J Plant Res 134:307-326
ラッカセイの根粒共生に果たすジャスモン酸シグナル伝達の役割について明らかにするためにプロテオーム解析を行ったところ、制御因子JAZ1は根粒共生過程の初期に、JAZと同じメンバーに属するTIFY8は後期にそれぞれ発現することが明らかとなった。(pp. 307-326)
ADAPはシロイヌナズナのグルコシノレート生合成の負の制御因子である
Harun S, Rohani ER, Ohme-Takagi M, Goh H-H, Mohamed-Hussein Z-A (2021)
Guilt-by-associationと呼ばれる手法を用いてシロイヌナズナのグルコシノレート関連遺伝子の一つとしてADAP転写因子遺伝子を同定した。発現抑制体等を用いた解析によりADAPはグルコシノレート生合成を負の制御する因子であることが示された。(pp. 327-339)
フラボノイド生合成を欠損したミヤコグサ変異体
Aoki T, Kawaguchi M, Imaizumi-Anraku H, Akao S, Ayabe S-I, Akashi T (2021)
ミヤコグサの実験系統B-129 'Gifu'の茎でのアントシアニン蓄積を指標に、自然変異を含むフラボノイド生合成欠損変異体をスクリーニングした。遺伝解析によりVIRIDICAULIS(VIC)と名付けた5つの遺伝子座を特定した。その中には、プロアントシアニジン(縮合型タンニン)を欠く変異体が含まれていた。(pp. 341-352)
オーキシン及びジベレリンによって誘導されるアズキ上胚軸切片の伸長の短鎖カルボン酸による促進
Satoh S (2021)
短鎖カルボン酸はオーキシンやジベレリンによる茎切片の伸長を促進したが、ギ酸はこれらのホルモンによる茎切片の伸長促進を長びかせ、その作用は細胞壁合成阻害剤により抑制されたことから、ギ酸が酸化ストレスを軽減することで細胞壁合成を伴う茎の成長を長く維持させる可能性を考察した。(pp. 355-363)