JPR和文要旨バックナンバー

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2021年7月号(Vol.134 No.4)

JPR Symposium

クロロフィル蛍光を用いたスクリーニング法

Ogawa T, Sonoike K (2021)

Screening of mutants using chlorophyll fluorescence. J Plant Res 134:653-664

クロロフィル蛍光は光合成の状態を非破壊的かつ迅速に解析するためのツールとして利用される。本総説では、クロロフィル蛍光解析の基本原理を解説し、その特性を活かしたスクリーニング法と、適用の範囲を様々な代謝系へと拡大した応用例について紹介した。(pp. 653-664)

光合成:多面的な視点から

Cruz JA, Avenson TJ (2021)

Photosynthesis: a multiscopic view. J Plant Res 134:665 -682

植物の光合成を非破壊で測定するクロロフィル蛍光解析、in vivo分光法、ガス交換測定などの原理を基本的な光合成のメカニズムを交えて解説しつつ、最新の測定法、パラメータ、データ解釈を紹介する。(pp. 665 -682)

光化学反射指数(PRI)を用いた農作物の環境ストレス検出

Kohzuma K, Tamaki M, Hikosaka K (2021)

Corrected photochemical reflectance index (PRI) is an effective tool for detecting environmental stresses in agricultural crops under light conditions. J Plant Res 134:683-694

光化学反射指数(PRI)を用いて作物の強光乾燥ストレスをリモートでイメージングした。PRIは夜間に補正値を取得する方法が一般的であるが、野外観測では困難であることから光環境下で補正する方法を提案した。(pp. 683-694)

リモートセンシングパラメータと葉の光合成速度の関係

Hikosaka K, Tsujimoto K (2021)

Linking remote sensing parameters to CO2 assimilation rates at a leaf scale. J Plant Res 134:695-711

リモートセンシングによって広域かつ多数のサンプルの光合成の推定が可能になりつつある。光合成を直接センシングすることはできないが、クロロフィル蛍光やキサントフィル色素の変換から光合成系の状態を推定できる。本総説は、リモートセンシングできるパラメータと光合成速度の関係の理論的背景を紹介する。(pp. 695-711)

冷温帯落葉広葉林における低分解能分光放射データから太陽光誘起クロロフィル蛍光を推定するaFLD法アプローチの提案

Nakashima N, Kato T, Morozumi T, Tsujimoto K, Akitsu TK, Nasahara KN, Murayama S, Muraoka H, Noda HM (2021)

Area-ratio Fraunhofer line depth (aFLD) method approach to estimate solar-induced chlorophyll fluorescence in low spectral resolution spectra in a cool-temperate deciduous broadleaf forest. J Plant Res 134:713-728

冷温帯落葉広葉林で観測された低分解能分光放射データに対して、新たに提案する面積比フラウンホーファー線深度 (aFLD)法に、高分解能分光放射データでのスケーリングを組み合わせ、11年もの長期にわたって太陽光誘起クロロフィル蛍光を推定するアプローチを開発した。(pp. 713-728)

リンゴ樹冠の無人航空機と地上からのリモートセンシングデータによる反射率のインバージョン

Yu R, Zhu X, Bai X, Tian Z, Jiang Y, Yang G (2021)

Inversion reflectance by apple tree canopy ground and unmanned aerial vehicle integrated remote sensing data. J Plant Res 134:729-736

無人航空機(UAV)リモートセンシングから正確な空間的に連続した反射率を取得するには、UAVデータを地上のデータと統合する必要がある。2つの手法を試し、地上-UAV直線スペクトル混合モデルが優れていることを示した。(pp. 729-736)

植生の光学的特性と生理生態学的過程:落葉広葉樹林での事例より

Noda HM, Muraoka H, Nasahara KN (2021)

Plant ecophysiological processes in spectral profiles: perspective from a deciduous broadleaf forest. J Plant Res 134:737-751

植生リモートセンシングで利用される植生の光学的特性は、個葉、群落、景観の各スケールにおける物理的・生化学的特性により決まる。これらの特性は植生の生理生態学的過程と密接な関係にある。落葉広葉樹林での研究事例を軸に、植物生理生態学的過程のリモセンについて概説する。(pp. 737-751)

Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology

中央ヒマラヤにおける標高に沿った葉の機能形質に見られる系統シグナル

Krishna M, Winternitz J, Garkoti SC, Penuelas J (2021)

Functional leaf traits indicate phylogenetic signals in forests across an elevational gradient in the central Himalaya. J Plant Res 134:753-764

中央ヒマラヤの異なる標高に生育する26種の植物を対象に、葉の形質の変異を調べた。解析した10形質の内、5つの形質で系統的シグナル、すなわち系統的に近い種間ほど形質が似る傾向が検出された。系統関係を考慮すると、葉の形質の変異は常緑性、落葉性といった生活型の違いや標高の影響を受けていることが示された。(pp. 753-764)

単子葉植物ホシクサ科ニッポンイヌノヒゲの花茎における求頂的な発達をする維管束と求基的な発達をし、基部側が盲端となる維管束の併存

Endo Y, Sugawara F, Yashiro K (2021)

Acropetally developing vascular bundles coexisting with basipetally developing and basally blindly ended vascular bundles in scapes of Eriocaulon taquetii (Eriocaulaceae, monocotyledons). J Plant Res 134:765-778

イネ科等で既知の求基的発達をし、基部側が盲端となる一次維管束をニッポンイヌノヒゲの花茎内で発見した。この維管束の基部側は根茎に達せず、根茎から花茎先端方向への水分の移動経路として不適である。この維管束は、単子葉植物の半水生であった祖先からの遺存形質と考えられる。(pp. 765-778)

Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology

光合成および酸化調節における塩分誘発性の変化は、塩分泌に応じて改善される

Hussain T, Li J, Feng X, Asrar H, Gul B, Liu X (2021)

Salinity induced alterations in photosynthetic and oxidative regulation are ameliorated as a function of salt secretion. J Plant Res 134:779-796

イオン分泌は、泌塩塩生植物の塩や干ばつ耐性を促進しますが、多くの種の生存への相対的な寄与はよくわかっていません。本論文では耐塩性植物Tamarix chinensisの長期生存のための有益な戦略として、塩分泌を確実にするカリウム保持などの生理学的メカニズムに関する洞察を提供しています。(pp. 779-796)

Morphology/Anatomy/Structural Biology

カンナ科の部分集散花序における振り子型対称性の消失:サソリ型花序の特徴に関する考察

Tian X, Yu Q, Lin C, Zhao T, Zou P, Liao J (2021)

Why pendulum symmetry is absent from the cymose partial inflorescences of Cannaceae? Insights into the essential characteristic of cincinni. J Plant Res 134:797-802

カンナ科では、通常同じ対掌性を持つ2つの花で部分集散花序が構成されている。本研究では、通常とは異なり3つ以上の花が形成されるCanna indicaの花序の発生過程を観察し、一般的なサソリ型花序における振り子型対称性が、側方の花芽の形成位置と関連していることを示した。(pp. 797-802)

キク科Pilosella brzovecensisの4, 5倍体における雌性不稔の原因の探索

Janas AB, Szeląg Z, Musiał K (2021)

In search of female sterility causes in the tetraploid and pentaploid cytotype of Pilosella brzovecensis (Asteraceae). J Plant Res 134:803-810

キク科Pilosella brzovecensisの4,5倍体の種子は不稔である。胚珠の発生を観察したところ、複数の無胞子生殖始原細胞(Al)が形成されるが、胚嚢へと発達することはなかった。この発達不全は、Alの細胞壁にカロースが蓄積することと関連していると考えられる。(pp. 803-810)

シロイヌナズナ葉柄のねじれの3D定量

Otsuka Y, Tsukaya H (2021)

Three-dimensional quantification of twisting in the Arabidopsis petiole. J Plant Res 134:811-819

植物は器官を様々に変形させる。例えば葉に横から光が当たると、葉柄を光方向に応じてねじり、葉身の向きを調整する。本論文では、ねじれ角度を曲がりと幾何学的に分離して測定する方法をまず開発し、シロイヌナズナ葉柄におけるねじれと曲がりの空間分布の違いを明らかにした。(pp. 811-819)

蝶型花を持たないマメ亜科植物Camoensia scandensの花の解明:花発生、蜜腺の解析および真正ヒトツバエニシダクレードにおけるポリネーションと系統分類に関する考察

Leite VG, Teixeira SP, Godoy F, Paulino JV, Mansano VF (2021)

Resolving the non‐papilionaceous flower of Camoensia scandens, a papilionoid legume of the core genistoid clade: development, glands and insights into the pollination and systematics of the group. J Plant Res 134:823-839

Camoensia scandensは、マメ亜科植物であるが蝶型花を持たない。本研究では、本種の花および蜜腺の発生過程を明らかにした。そして、他の真正ヒトツバエニシダクレードの植物との比較を行い、このグループにおけるポリネーションと系統分類について検討を行った。(pp. 823-839)

Genetics/Developmental Biology

トウガラシにおける核リボソームDNAの組織および発生段階特異的メチル化

Ince AG, Karaca M (2021)

Tissue and/or developmental stage specific methylation of nrDNA in Capsicum annuum. J Plant Res 134:841-855

本研究では、トウガラシの核リボソームDNA(nrDNA)におけるITS15.8rRNAITS2のシトシンメチル化レベルを9種類の異なる組織と発生ステージで解析した。その結果、nrDNAメチル化レベルが組織や発生ステージを評価する指標となりうることが明らかになった。(pp. 841-855)

Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology

外因性メラトニンによってワタ (Gossypium hirsutum) の塩ストレス応答は軽減される

Shen J, Chen D, Zhang X, Song L, Dong J, Xu Q, Hu M, Cheng Y, Shen F, Wang W (2021)

Mitigation of salt stress response in upland cotton (Gossypium hirsutum) by exogenous melatonin. J Plant Res 134:857-871

本研究では, 外因性メラトニン前処理が,塩ストレスによる組織の酸化的損傷を減少させ, 塩ストレスに応答した遺伝子発現制御に影響することで, 塩ストレス暴露下でのワタの成長阻害を有意に緩和することを示した。これはワタの塩ストレスにおけるメラトニンの重要性を示す成果であった。(pp. 857-871)

Biophysics/Theoretical and Systems Biology

低温馴化においてmRNAとタンパク質の分解は馴化制御の標的となり得る

Krantz M, Legen J, Gao Y, Zoschke R, Schmitz-Linneweber C, Klipp E (2021)

Modeling indicates degradation of mRNA and protein as a potential regulation mechanisms during cold acclimation. J Plant Res 134:873-883

植物の低温馴化の分子機構を明らかにするために、低温暴露させたタバコにおける光合成関連タンパク質とATPaseのタンパク質レベルでの挙動を調べたところ、顕著な量的変動は見られなかった。常微分方程式を用いた数理モデルにより、この観察結果はmRNAとタンパク質の分解は馴化制御の標的になり得ることが示された。(pp. 873-883)

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