JPR和文要旨バックナンバー

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2021年9月号(Vol.134 No.5)

Current Topics in Plant Research

カルスト地帯に生息する植物の適応能力

Liu C, Huang Y, Wu F, Liu W, Ning Y, Huang Z, Tang S, Yu Liang (2021)

Plant adaptability in karst regions. J Plant Res 134:889-906

カルスト地帯の生息する植物は、特有の環境(乾燥、高温、強光、高カルシウム濃度)に対する高い適応能力を持ち、水利用効率や栄養分配能に優れている。本総説では、カルスト植物の高い適応能力が紹介されている。また、人類がカルスト地帯の植物に及ぼしている影響にも言及している。(pp. 889-906)

Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology

積雪量の大きく異なる2つの地域に分布する日本のカヤ属2分類群の系統的起源

Aizawa M, Worth JRP (2021)

Phylogenetic origin of two Japanese Torreya taxa found in two regions with strongly contrasting snow depth. J Plant Res 134:907-919

日本列島では太平洋側と日本海側で冬季の積雪深に著しい違いがみられ、それに対応して高木性のカヤは太平洋側の山岳に、低木性のチャボガヤは日本海側の山岳に分布する。両者の分子系統解析の結果、チャボガヤは、大陸のシナガヤと近縁であり、カヤとは系統的起源の異なる独立種と考えられた。(pp. 907-919)

リンドウ科の光合成植物フデリンドウのアーバスキュラー菌根菌との共生による実生成長時の菌従属栄養性

Yamato M, Suzuki T, Matsumoto M, Shiraishi T, Yukawa T (2021)

Mycoheterotrophic seedling growth of Gentiana zollingeri, a photosynthetic Gentianaceae plant species, in symbioses with arbuscular mycorrhizal fungi. J Plant Res 134:921-931

直径300μmほどのフデリンドウ種子を自生地に埋設したところ、土中で長さ3 cm以上のシュート形成に至る成長が観察され、実生成長時の菌従属栄養性が明らかとなった。また、根の皮層細胞ではアーバスキュラー菌根(AM)菌の菌糸コイルが観察され、特定のAM菌群の共生が併せて確認された。(pp. 921-931)

東海地方におけるナラ3種の遺伝的多様性は,異なる集団サイズ変化と移住の歴史により形成された

Tamaki I, Obora T, Ohsawa T, Matsumoto A, Saito Y, Ide Y (2021)

Different population size change and migration histories created genetic diversity of three oaks in Tokai region, central Japan. J Plant Res 134:933-946

東海地方のナラ3種(フモトミズナラ,ミズナラ,コナラ)の遺伝的変異をEST-SSRで調べた。3種は明瞭な遺伝構造を示したが,僅かに混合も見られた。ABC解析の結果,それぞれの遺伝的多様性は,異なる集団サイズ変化や,時期や強度の異なる移住の歴史により特徴づけられた。(pp. 933-946)

Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology

雌雄異株性の若木において、乏しいのではなく肥沃な条件が成長速度の性差を決定する

Nowak K, Giertych MJ, Pers-Kamczyc E, Thomas PA, Iszkuło G (2021)

Rich but not poor conditions determine sex‐specific differences in growth rate of juvenile dioecious plants. J Plant Res 134:947-962

性的二型をもたらす要因については、木本種では十分な研究がなく、特に、若木では性的二型の有無もよく分かっていない。一方、雌雄異株性の植物では、好ましくない環境条件は性差を顕著にすると予想されている。本研究では、雌雄異株性の木本2種で、いくつかの特性における性的二型が若木でも観察された。しかし、予想に反し、肥沃な土壌条件下で性的な差異はより顕著になった。(pp. 947-962)

エリカ属における花冠の粘着性は、盗蜜を妨げる

McCarren S, Coetzee A, Midgley J (2021)

Corolla stickiness prevents nectar robbing in Erica. J Plant Res 134:963-970

花冠の粘着性は、その機能について未解明な形質である。ケープで多様化するツツジ科エリカ属植物を対象とした本研究では、花冠の粘着性は盗蜜を妨ぐ機能を持つこと、また蜜量が多い鳥媒花や長口吻ハエ媒花に、また花冠が細長い花、萼片が短い花に、多く見られることを発見した。(pp. 963-970)

シダ植物コケシノブ科における世代間の生理生態学的特異化

Nitta JH, Watkins Jr. JE, Holbrook NM, Wang TW, Davis CC (2021)

Ecophysiological differentiation between life stages in filmy ferns (Hymenophyllaceae). J Plant Res 134:971-988

フランス領ポリネシアのモーレア島に生育するコケシノブ科において、世代と生活様式が乾燥耐性と光合成効率とどのような関係を持つのかを調べた結果、胞子体では生活様式によって乾燥耐性が異なるのに対して、配偶体はどの種においても胞子体より乾燥耐性も光合成効率も低いことが示唆された。(pp. 971-988)

モウソウチクと樹木の地上部の呼吸スケーリングの一致

Wang M, Mori S, Kurosawa Y, Ferrio JP, Yamaji K, Koyama K (2021)

Consistent scaling of whole-shoot respiration between Moso bamboo (Phyllostachys pubescens) and trees. J Plant Res 134:989-997

生態も生理も異なるモウソウチクと樹木の地上部呼吸-重量スケーリング関係は一致した。モウソウ地上部全体の葉、枝、稈の呼吸はそれぞれの器官重量に比例した。しかし、高呼吸の葉と低呼吸の稈配分は地上部サイズに応じてシフトしたため、モウソウと樹木の地上部呼吸は一致した。(pp. 989-997)

温帯砂漠に生息するAgriophyllum squarrosumにおいて、異なる標高環境への局所適応に関係する有機酸代謝産物を特定した

Zhou S, Yang J, Qian C, Yin X, Yan X, Fan X, Fang T, Gao Y, Chang Y, Ma X-F (2021)

Organic acid metabolites involved in local adaptation to altitudinal gradient in Agriophyllum squarrosum, a desert medicinal plant. J Plant Res 134:999-1011

砂漠に分布するヒユ科草本のAgriophyllum squarrosumについて、標高250mから3100m にまたがる14の生息地で種子を集め、同じ環境で育てて、有機酸含量を測った。その結果、サリチル酸とprotocatechualdehydeの濃度が高標高個体で有意に高く、これらの物質の生合成を担う桂皮酸経路での酵素の強い発現が、こうした有機酸蓄積や高標高環境への局所適応に重要である可能性が示唆された。(pp. 999-1011)

カジノキ(クワ科)における葉のケイ素集積速度は枝の成長速度や光環境と関係する

Kajino H, Kitajima K (2021)

Leaf silicon accumulation rates in relation to light environment and shoot growth rates in paper mulberry (Broussonetia papyrifera, Moraceae). J Plant Res 134:1013-1020

植物は土壌水とともにケイ素を吸収するので、葉のケイ素集積速度は蒸散依存性をもつことが予測される。クワ科のカジノキでは、葉のケイ素集積速度は光環境が良く成長の速い枝において高かった。葉のケイ素濃度は葉齢および蒸散速度に影響する微環境に依存的な種内変異を示すことがわかった。(pp. 1013-1020)

対照的な光環境に生息するニイタカヤダケ(Yushania niitakayamensis、タケ亜科;イネ科)の葉の形質のおける表現型可塑性と遺伝的分化

Wu K-S, Kao W-Y (2021)

Phenotypic plasticity and genetic variation in leaf traits of Yushania niitakayamensis (Bambusoideae; Poaceae) in contrasting light environments. J Plant Res 134:1021-1035

対照的な生育光環境に分布するニイタカヤダケの2つ個体群で、野外個体と、光条件を制御したグロースチャンバーへ移植した個体を使い、16種類の葉の形質を測定した。その結果、葉の厚さや窒素濃度、最大光合成速度などの複数の形質で生育光環境に対する局所適応が示唆された。(pp. 1021-1035)

内陸性塩性湿地でみられる3種類の塩生植物群落の分布域に対する土壌塩分組成の効果

Cui Q, He T, Zhang A, Quan X, Feng Y, Chen X, He Y (2021)

Effects of soil salinity characteristics on three habitats in inland salt marshes. J Plant Res 134:1037-1046

本研究は、中国の内陸性塩性湿地における土壌の性質と植生の関係を調査した。植生は多肉植物群落、スゲ科植物群落、イネ科植物群落の3種類に分類でき、これらの優占度は土壌の無機塩組成で変化した。多肉植物群落は高塩濃度環境で見られたが種多様性が低く、スゲ科、イネ科植物群落は低塩濃度環境でしか見らないが種多様性は高かった。(pp. 1037-1046)

Genetics/Developmental Biology

Avena magna×A. longiglumis複二倍体の胚乳における細胞遺伝学的事象

Tomaszewska P, Kosina R (2021)

Cytogenetic events in the endosperm of amphiploid Avena magna × A. longiglumis. J Plant Res 134:1047-1060

カラスムギ属の異種間交雑で生まれた異質倍数体の胚乳における細胞遺伝学的事象を解析した。ハイブリッド胚乳では、染色体とその断片が除去され倍数性が減少し3nではなく2nに近くなることや、異なるゲノム間の非相互交換など複雑な事象が検出された。(pp. 1047-1060)

イネ胚乳細胞化過程における高解像度の時空間的トランスクリプトーム解析によりデンプン性胚乳および糊紛層細胞運命特定にとってのクリティカルで最も初期段階の遺伝子制御が明らかにされた

Takafuji Y, Shimizu-Sato S, Ta KN, Suzuki T, Nosaka-Takahashi M, Oiwa T, Kimura W, Katoh H, Fukai M, Takeda S, Sato Y, Hattori T (2021)

High-resolution spatiotemporal transcriptome analyses during cellularization of rice endosperm unveil the earliest gene regulation critical for aleurone and starchy endosperm cell fate specification. J Plant Res 134:1061-1081

イネ胚乳は同心円的細胞層増加により発達する。その際デンプン性胚乳(SE)および糊紛層(AL)の細胞運命特定が起きる。1細胞層期の並層分裂は内外娘細胞がそれぞれSEおよびALの属性を示す非対称分裂であった。ただ、SE特異的遺伝子発現は1細胞層期で顕在化していた。(pp. 1061-1081)

Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology

Glyoxalase III遺伝子を過剰発現する組換えサトウキビにおける塩害ストレス耐性の向上

Mohanan MV, Pushpanathan A, Padmanabhan S, Sasikumar T, Jayanarayanan AN, Selvarajan D, Ramalingam S, Ram B, Chinnaswamy A (2021)

Overexpression of Glyoxalase III gene in transgenic sugarcane confers enhanced performance under salinity stress . J Plant Res 134:1083-1094

サトウキビで近縁のErianthus arundinaceus由来メチルグリオキサール解毒化酵素遺伝子を過剰発現させたところ、塩ストレス下での過酸化脂質の減少に加え、水分状態、ガス交換パラメータ、クロロフィル/カロテノイド/プロリン含有量、総可溶性糖、SODおよびPOD活性の上昇と共に耐塩性の向上がみられた。(pp. 1083-1094)

サボテンの揮発性化合物プロファイリング:Cylindropuntia, Grusonia, Consolea, Opuntia, Quiabentia, Tacingaにおける揮発性化合物の分類学的および進化学的意義の予備的評価

Maurer MM, Baker MA (2021)

Volatile profiling of cacti: a preliminary assessment of the taxonomic and evolutionary significance of volatile compounds in Cylindropuntia, Grusonia, Consolea, Opuntia, Quiabentia, and Tacinga. J Plant Res 134:1095-1103

花や果実、食用の茎に比べて、あまり調べられていなかったサボテンの茎の揮発性化合物を解析したところ、臭気の有無によってアルデヒド類、アルコール類、テルペン類、ケトン類、ジオール類などの組成が異なることがわかった。また、ゲノム倍数性の異なる品種間でも揮発性化合物の組成に違いが見られた。(pp. 1095-1103)

塩耐性植物Suaeda liaotungensis由来の転写因子遺伝子SlNAC7の特性評価とそのストレス耐性における役割

Wang H-F, Shan HY, Shi H, Wu D-D, Li T-T, Li Q-L (2021)

Characterization of a transcription factor SlNAC7 gene from Suaeda liaotungensis and its role in stress tolerance. J Plant Res 134:1105-1120

塩生植物Suaeda liaotungensisSlNAC7遺伝子の機能解析を行ったところ、SlNAC7は乾燥・塩・低温ストレスおよびABA処理によって発現誘導された。また、SlNAC7過剰発現はストレス耐性関連遺伝子を誘導し、シロイヌナズナのストレス耐性を向上させた。(pp. 1105-1120)

野生飼料植物Reaumuria trigynaのロイコアントシアニジンジオキシゲナーゼ遺伝子(RtLDOX2)はフラボノイドの蓄積による環境ストレス耐性の向上に関わる

Li N, Wang X, Ma B, Wu Z, Zheng L, Qi Z, Wang Y (2021)

A leucoanthocyanidin dioxygenase gene (RtLDOX2) from the feral forage plant Reaumuria trigyna promotes the accumulation of flavonoids and improves tolerance to abiotic stresses. J Plant Res 134:1121-1138

中国北西部の砂漠草原における野性飼料植物Reaumuria trigynaがもつ2つのロイコアントシアニジンジオキシゲナーゼ遺伝子の1RtLDOX2は塩分、乾燥、アブシジン酸によって急速に発現が上昇することがわかった。また、過剰発現体ではアントシアニンとフラボノールの蓄積を促進することで、環境ストレス耐性を付与していると考えられた。(pp. 1121-1138)

アポプラスチックバイパスフローを介したイネのカドミウム取り込み

Mori IC, Arias-Barreiro CR, Ooi L, Lee N-H, Sobahan MA, Nakamura Y, Hirai Y, Murata Y (2021)

Cadmium uptake via apoplastic bypass flow in Oryza sativa. J Plant Res 134:1139-1148

根においてシンプラストを経ず、アポプラストのみを介して中心柱へ水を運ぶアポプラスチックバイパスフローが、ストレス条件下において、イネ地上部へのカドミウムの輸送に関わっていることを見出した。(pp. 1139-1148)

Technical Note

様々な組織に由来するヒヨコマメ外植片のチジアズロン処理による再生への影響

Kumari P, Singh S, Yadav S, Tran L-SP (2021)

Influence of different types of explants in chickpea regeneration using thidiazuron seed-priming. J Plant Res 134:1149-1154

ヒヨコマメの様々な組織由来の外植片からの再生効率について、合成サイトカイニンのチジアズロン(TDZ)処理のタイミングを中心に検討した。種子をTDZ処理した後にTDZを、TDZ非含有シュート誘導培地で処理する方法で最も高い再生効率が得られた。(pp. 1149-1154)

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