2022年5月号(Vol.135 No.3)
Current Topics in Plant Research
トランスゴルジ網におけるRAB GTPaseとSNAREの役割
Ito E, Uemura T (2022)
RAB GTPases and SNAREs at the trans-Golgi network in plants. J Plant Res 135:389-403
植物のトランスゴルジ網(TGN)は、複数の膜交通経路が合流するダイナミックなオルガネラである。この総説では、TGNに局在するRAB GTPaseやSNAREがはたらく分子メカニズムについて最新の知見を総括するとともに、植物の環境ストレス応答におけるTGNの役割を紹介する。(pp. 389-403)
Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology
宿主抵抗性の改良に資するリョクトウ黄斑モザイクウイルスの親和性感染における植物OBERONたんぱく質のin-silico解析
Sai CB, Chidambaranathan P (2022)
In-silico evolutionary analysis of plant-OBERON proteins during compatible MYMV infection in respect of improving host resistance. J Plant Res 135:405-422
先行研究によりリョクトウ黄斑モザイクウイルス(MYMV)に感染したササゲ属植物の感染特異的タンパク質としてOberonが同定された。本研究では、OberonとMYMVの進化や相互作用についてin-silico解析を行った。OberonとMYMVの関係が進化したのは比較的遅く、陸上植物の発生の間であると推測された。Oberonの特定領域であるPHD及びCCとMYMVのVPg領域との相互作用は感受性を高めると示唆された。(pp. 405-422)
Pilosocereus leucocephalus(サボテン科)の系統解析と形態比較による分類学的再検討
Franco-Estrada D, Barrios D, Cervantes CR, Granados-Aguilar X, Arias S (2022)
Phylogenetic and morphological analyses of Pilosocereus leucocephalus group s.s. (Cactaceae) reveal new taxonomical implications. J Plant Res 135:423-442
サボテン科ピロソケレウス属の狭義Pilosocereus leucocephalusグループの分類学的再検討をおこなった。メキシコおよび中米から収集したサンプルに基づき、葉緑体DNAと核DNAの系統樹を構築した結果、Pilosocereus leucocephalusグループの単系統性が支持された。さらに、形態的なまとまりや系統関係を考慮し、本種グループ内には6つの種を認めることが妥当であると結論付けた。(pp. 423-442)
Abrus pulchellus subsp. cantoniensisの葉緑体ゲノムの全塩基配列と構造比較
Xu S, Sun M, Mei Y, Gu Y, Huang D, Wang J (2022)
The complete chloroplast genome sequence of the medicinal plant Abrus pulchellus subsp. cantoniensis: genome structure, comparative and phylogenetic relationship analysis. J Plant Res 135:443-452
中国の固有種で薬用植物でもあるAbrus pulchellus subsp. cantoniensisの葉緑体ゲノムの全塩基配列を決定し、その構造を近縁種と比較した。葉緑体DNAは全長156,497塩基対で、130個の遺伝子から構成されていた。20個の遺伝子中に53カ所のRNA編集部位と予想されるサイトが見られた。 系統解析の結果、本種はA. precatoriusと近縁であることが示された。(pp. 443-452)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
休眠種子を持つ先駆樹種の気候変動下における発芽・生残:メキシコの半乾燥生態系におけるVachellia pennatula(マメ科)の場合
Sandoval-Martínez J, Flores-Cano JA, Badano EI (2022)
Recruitment of pioneer trees with physically dormant seeds under climate change: the case of Vachellia pennatula (Fabaceae) in semiarid environments of Mexico. J Plant Res 135:453-463
半乾燥生態系樹種の種子発芽と実生生残における種皮処理の有無と気候条件の影響を実験的に検証した。将来的な気候条件下で発芽率や生残率は低下し、種皮処理により発芽率はさらに低下した一方、生存率は変化しなかった。休眠種子の発芽を促す種皮処理が、気候変動下では発芽率を低下させる可能性がある。(pp. 453-463)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
Gaillardia属栽培品種のヤグルマギク様舌状花表現型におけるCYC2c遺伝子の役割の可能性
Sun P, Bao Y, Zhu Y, Huang N, Wang X, Wu Z (2022)
Possible role of the CYC2c gene in the cornflower-like ray floret phenotype of Gaillardia cultivars. J Plant Res 135:465-472
ヤグルマギク様の漏斗型舌状花はGaillardia属の特徴の一つである。今回、CYCLOIDEA (CYC) ホモログ遺伝子の発現解析、および遺伝子サイレンシング解析から、新規に同定したCYC2c遺伝子がこの舌状花の形態形成に関与している可能性が明らかになった。(pp. 465-472)
ニチニチソウ葉組織において、蛍光性アルカロイド代謝は発達段階に応じて異形細胞と乳管細胞で異なる制御を受ける
Uzaki M, Yamamoto K, Murakami A, Fuji Y, Ohnishi M, Ishizaki K, Fukaki H, Hirai MY, Mimura T (2022)
Differential regulation of fluorescent alkaloid metabolism between idioblast and lacticifer cells during leaf development in Catharanthus roseus seedlings. J Plant Res 135:473-483
ニチニチソウはアルカロイドを蓄積する2種類の特殊な細胞(異形細胞)を持つ。本研究ではそれらの分布や数、蓄積物と成長との関連を調べた。その結果、これまで形態の違いしか知られていなかった2種類の細胞が分化過程や蓄積するアルカロイドの組成において異なる挙動をすることを見出した。(pp. 473-483)
トランスクリプトーム解析によって明らかにされたカギカズラにおけるリンコフィリン及びイソリンコフィリンに対するエチレンの二重制御機構
Li X, Wang X, Qiang W, Zheng H, ShangGuan L, Zhang M (2022)
Transcriptome revealing the dual regulatory mechanism of ethylene on the rhynchophylline and isorhynchophylline in Uncaria rhynchophylla. J Plant Res 135:485-500
カギカズラはアルツハイマー病の治療に利用されているリンコフィリン及びイソリンコフィリンを生産する。エチレン処理は、濃度が18 mMの場合は、リンコフィリン及びイソリンコフィリンの生合成関連遺伝子の発現を高めた一方、36 mMでは、これらの遺伝子群の発現を抑制した。(pp. 485-500)
ブドウべと病菌に応答したブドウのアスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子ファミリーの特性・発現解析
Figueiredo L, Santos RB, Figueiredo A (2022)
The grapevine aspartic protease gene family: characterization and expression modulation in response to Plasmopara viticola. J Plant Res 135:501-515
ブドウべと病菌に対するブドウの防御反応に関わるアスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子を同定するため、抵抗性品種が有する当該遺伝子のゲノムワイドな探索を行い、65個の候補遺伝子を見出した。発現解析の結果、これらの内、5つの遺伝子がべと病菌に対する耐性に関与することが示唆された。(pp. 501-515)
硫化水素添加によるキュウリ芽生えの塩ストレス緩和
Turan M, Ekinci M, Kul R, Boynueyri FG, Yildirim E (2022)
Mitigation of salinity stress in cucumber seedlings by exogenous hydrogen sulfide. J Plant Res 135:517-529
NaClで処理したキュウリ芽生えに硫化水素を葉面散布したところ、膜透過性や相対水分量、光合成特性が改善した。また、葉中の抗酸化酵素活性および過酸化水素、マロンジアルデヒド、プロリンやショ糖濃度の減少がみられ、これらの調節を介して塩ストレスを緩和していることがわかった。(pp. 517-529)